今回はランニング障害がどのような時に起こるのかということについて解説したいと思います。ちなみにですが、長距離走は最も怪我の可能性が高いスポーツの一つです。スポーツ障害は大きく分けると、スポーツ内傷とスポーツ外傷の二つに分類されます。
このうちで例えば、サッカーやバスケで接触があって打撲をした、骨折をした、捻挫をしたというのがスポーツ外傷です。外部からの衝撃によって怪我をするのが外傷です。
そして、野球ひじ、テニス肘、ジャンパーズニ―などの接触によって起こるのではなく、ある動作を反復することによって生じる怪我のことを内傷と言います。
長距離走・マラソンは怪我のほぼすべてが内傷です。ごく稀に長距離走・マラソンランナーも私生活の不注意から外傷を起こしたり、レース中の接触や障害を飛び越える際に怪我をすることもあるのですが、基本的には内傷です。
そして、各スポーツごとの内傷と外傷を合わせた故障の確率は長距離走・マラソンはかなりトップに来ます。そのくらい、長距離走・マラソンは怪我の多い種目なのですが、どういうときにランニング障害は起こるのかということを考えてみると、その予防がしやすくなります。
ちなみにここまで書いてみて大方の人がこう予想するのではないでしょうか?
「ははあ、また理論家の池上がなんか小難しいことを書くために序章を書いてるぞ。大方走りのバランスが崩れているから故障するとでも書くのだろう」と。
こう思われた方は残念ですが、私の考え方は真反対です。実は、最近はインターネットで色々な情報発信をすることが出来るようになったおかげで、知識が手に入りやすくなっているのですが、しばしば実践的な観点が抜け落ちているように感じます。
ネット上では走りのバランスが崩れているから、ここの関節がこうなっているから、ここの筋肉がこうだからという細かい説明が加えられるのですが、私はもっと本質的な問題があると思います。
ちなみにこれは私の5回の疲労骨折と競技生活のほとんどで何らかの痛みを抱えていた経験から書くのですが、実はどこを故障するかはあまり問題ではないような気がしています。問題は体のホメオスタシス機能を超える負荷を体にかけ続けた結果として、体のどこかに問題が生じるというだけのような気がします。
要するに、全体の練習の負荷と現在の自分の基礎体力、リカバリー能力、睡眠習慣、栄養状態などの負荷の側面と、回復の側面を比較したときにある程度の期間にわたって負荷の側面が大きくなった結果として、生じるのが痛みであり、その痛みがその時々によって足底であったり、膝であったり、腰であったり、シンスプリントであったりするだけで、本質的には練習の負荷と体のホメオスタシス機能の強さの問題だと思います。
ただ、いったん故障してしまうと何もせずに休んでいるだけでは治りが遅くなったり、もしくは完全に治癒の過程がストップしたりします。この現象を説明するのに、ちょうどよい話があります。
これは私が小学校6年生くらいの時に読んだ名探偵コナンの「霧天狗伝説殺人事件」という話です。この話では、霧に身を隠して天狗が現れ若い女を連れ去るという伝説のある山奥の寺で、天井が高く梁の細い部屋で梁に坊さんが首をつられて死んでいるという話です。

その部屋は梁までの高さが物凄くあり、とても人間が首をつるせる高さではありません。しかも、その部屋にはたった一夜で爆弾でも撃ち込まれたかのような穴が開いています。でも、爆弾が爆発したような音もしませんでした。唯一考えられるのは首を吊った坊さんがターザンのように梁をつたっていって首を吊ることだけです。事件は自殺かはたまた霧天狗の仕業かといった話です。

ネタバレせざるを得ないので、それが嫌な方はここで読むのをやめてください。実はこの話は近くを流れる滝の水をこの天井がとても高い部屋に入れて、坊さんをいったん殺した後で、ボートに乗せて浮かび上がり、天井の梁にかける、そして外からその部屋に斧でひびを入れるとその一点に全ての圧力が集中するので、とてつもない力がかかり、その水圧でまるで爆弾でも爆発させたかのような大穴が部屋にあくというトリックです。
そして、水は全て外に流れ出るので、まるで霧天狗が坊さんを担いで天井まで飛び上がったかのように見えるという訳です。
私が言いたいことはこういうことです。この天井が大きい部屋に水を入れると部屋が水槽に早変わりです。この水槽には通常は水圧が均整にかかっているので、なんともありません。
ところが、どこかにひびが入るとこの均整が壊れて一点に力が集中します。この状況については名探偵眠りの小五郎に説明してもらいましょう。
「この部屋の容積は床が4畳半ぐらいで高さが10mぐらいだから、2.7m×2.7m×10mで72.9立方m!水の比重は1だから、部屋にたまった水の重量は72.9t!そんな水が入った部屋の底の小窓に、オノの刃を入れればどうなるかおわかりでしょう…亀裂が入ってもろくなった小窓は、およそ9.8×104Paもの圧力でふっ飛び、噴き出す水の勢いで壁はみるみる砕け散り、大穴があく!!」
だそうです(笑)
ここでは水の量がトレーニングの負荷です。
そして、水槽があなたが受け入れられるトレーニングの負荷です。
そして、水槽に入るひびはあなたが抱える違和感やアンバランスや様々な小さな不具合です。走り方に著しくアンバランスがあったり、局所的に強い張りがあれば、このひびがある状態です。
そして、このひびには小さなひびもあれば、おおきなひびもあります。先ずこのひびがあるのかないのか、あるとしたらこのひびの大きさがどのくらいなのかということが故障するかどうかの一つの大きな要素になります。
そして、二つ目の要素は水槽に入れる水の量です。要するにどれだけトレーニングの負荷をかけるかです。
そして、三つ目の要素は水槽の大きさです。これはあなたの基礎体力であり、筋力であり、筋持久力であり、栄養状態であり、睡眠状態であり、トレーニング以外にかかるストレスなどによって決まります。
同じ練習をしていても過去にしっかりと練習をしてきた人は故障のリスクが減ります。これは水槽の大きさが大きいからです。また同じ人間でも、しばらく練習量が減っていたり、受験や仕事でストレスのかかる状態が続いていると故障のリスクが高まります。これは一時的に水槽が小さくなっているからです。
このように3つの要素がある訳ですが、私自身は2つ目と3つ目の要素が大きいと思います。走りのバランスがどうとか、走り方がどうとかというのは実はそこまで大きな要素ではないと思います。
それは何故かと言えば、やはり故障するのは全身が疲れているタイミングが一番多いからです。私自身これまで色々な種類の故障をしてきました。腰から下は一通り故障をしてきたのですが、走りのバランスが崩れているから故障したと思ったことはほとんどありません。
勿論、私の走りは完ぺきではありません。治すところはあります。でも逆の言い方をすれば直すところは常にあるので、あんまりそういうこと言いだすときりがないのかなと思います。
一つ挙げるとすれば、力みが強いと故障のリスクは上がります。地面を強く蹴るイメージではなく、地面に触れるもしくは地面をなでるような走りでスピードが出せる時は、故障もしにくいです。疲れずにスピードが出せるので、試合に出ても良い記録が期待できます。
そういった違いはあるにせよ、故障する時は走りが崩れているのかというとそうでもないことが多かったというか、走りが崩れたから故障したということはまずありませんでした。
繰り返しになりますが、これは私の走り方が完璧であるという意味ではありません。私が言いたいのは故障した時も故障していない時も同じように走っていたということです。
結論を述べると、故障を防ぐ最も良い方法は適切なトレーニングの負荷を設定することと、体調管理や体の回復に常に心を配るということです。
万が一故障してしまった時はどうすれば良い?
そうは言ってもどうしても一定の確率で起こってしまうのがランニング障害です。それなら故障してしまった時の対処法と故障との付き合い方、つまり故障中のトレーニング方法と復帰段階における練習のやり方を知っておくことも非常に大切なことです。
こういった知識は消防や警察や医者や自衛隊と同じで、本当はない方がいないんだけれども一定の確率で必ず起こってしまうが故に必要なものたちです。
そのため、現在以下の内容について解説している講義動画を作成中です。
・故障の原理。故障は何故発生するのか?
・慢性的な故障の原理。何故数か月も治らない故障が存在するのか?
・最も有効な故障の治し方
・ストレッチは有効か?
・慢性的な故障のための食事とサプリメント
・故障と薬(非ステロイド系の抗炎症薬とステロイド注射)
・その他の様々な治療方法
・故障中の練習と故障からの復帰練習の組み方
これからのことについて体系的かつ網羅的に解説する講義動画を近日公開させて頂きます。ブログやメルマガで案内させて頂きますので、楽しみにお待ちください。
常に故障に悩んでいるシニアです。核心を突いた、大変分かりやすい説明ありがとうございます。動画も大変期待しております。