突然ですが、あなたは洛南メソッドというオンラインスクールがあるのをご存じでしょうか?
というか、その前にそもそも洛南高校陸上競技部という日本一の陸上競技部があるのをご存じでしょうか?
インターハイの総合優勝は10回、インターハイチャンピオンや国体チャンピオンも何人も輩出しており、それだけではなく日本高校記録も何回も更新している学校です。
私もその末席を汚させて頂いた者ですが、今回改めて洛南メソッドというオンラインスクールを受講してみました。
「いや、お前はいらんやろ」
というツッコミが全国から届いておりますが、事情を説明しますと、洛南メソッドで紹介されているのは、洛南高校陸上競技部短距離の冬季練習の内容です。
私は長距離に在籍しており、当時も今も長距離と短距離は別々で練習しているので、短距離が何をしていたのかは全く知りませんでしたし、短距離を指導されている柴田先生とも挨拶程度で特にご指導を受ける機会もありませんでした。
それで改めて柴田先生がどんな指導をされているのか気になったのです。
ちなみにですが、在学中は柴田先生から指導を受ける機会はありませんでしたが、柴田先生から卒業後に以下のような話をしていただいたことがあります。
「最近はつま先接地、つま先接地というけれど、初めからつま先で接地することを意識していたら、大きな筋肉は使えない。かかと、最悪でも足裏全体で接地する意識を持ってもスピードに乗ってきたら勝手にかかとは浮いてつま先接地になる、その時に大きな筋肉群を使うことが出来るようになり、鍛えるべき筋肉が鍛えられるようになる。初めから、つま先で接地することを意識していたら、ふくらはぎなどの小さな筋肉群しか使えないし、そこしか使わないとトレーニングをしてもハムストリングスや大殿筋などの大きな筋肉群が鍛えられない」
私は生まれてこのかた中長距離走においてはずっとかかと接地でしたが、1500mのラストスパートなどの速度が上がる局面においては勝手にかかとが浮いてつま先接地になりました。そして、普段はかかとからついた方が楽に走れます。1キロ3分ペースとかであればかかと接地の方が全然楽に走れます。
経験的に、基本はかかと接地でスピードが上がると、足裏全体の接地やつま先接地に勝手になるということを知ってはいたのですが、短距離でもそうだというのは知らなかったので、ものすごく勉強になったのです。
また、別の話では力を鉛直方向に出すということを話されていました。これはどういうことかというとスピードに乗ると勝手に水平方向の力は働くので、意識的には真上に飛ぶようなイメージでちょうど良いという話もしてくださいました。
スポーツというのは感覚と実際の動作の間にずれが生じます。このずれを理解していないと正しく体を動かすことは出来ないのです。
ところが、ユーチューブなんかをみていても大半の人はトップランナーがやっていることを表面的に解説しているだけで、どういう理屈でそうなるのか、どういう意識で体を動かせば、そういう風になるのかということを教えてくれる人はほぼ皆無です。
柴田先生のような一流の指導者と一般の指導者を比べること自体が前者に対しては失礼であり、後者に対しては酷なのかもしれませんが、教えを受ける機会のなかった恩師の教えをもっと勉強したくなったのです。
とはいえ、オンラインスクールがあるのは知りませんでした。知っていたらもっと早く買っていましたが、たまたま先日知ったので受講してみたのです。私が受講してみて参考になった部分を皆様にも共有させて頂きます。
学んだことその1:低負荷、中回数、高頻度
洛南高校のトレーニングの基本は低負荷、中回数、高頻度であると柴田先生がおっしゃっていました。もちろん、日本一の陸上競技部の練習ですから、一般人がやったら死ぬほどきついと思います。私も多分ついていけないです。ただ、それでもコンセプトは低負荷、中回数、高頻度であるとのことでした。
実際に、確かに私でも出来そうなものもいくつかありました。そして、私が納得したのは実は長距離走、マラソントレーニングにおいても中強度以下の練習の頻度が重要だからです。
一回の練習で思い切って負荷をかけてあとは走らないみたいなやり方よりも中強度以下の練習の頻度を上げることの方が大切です。短距離と長距離ではやや異なる部分もありますが、短距離のトレーニングにおいても低負荷、中回数、高頻度が基本であるというのはとても納得できる部分がありました。
同時に、これはわずか月間400㎞程度の練習で日本インカレ10000mで日本人トップの二位になった京大生平井健太郎のトレーニングに対する考え方にも通ずるものがあります。トレーニングとは早い話が細胞の記憶構造を変えることです。そして、細胞の記憶構造を変えるためには頻度が何よりも大切であるというのは非常に納得のできる考え方です。
そして、これもまた面白い話というか、やや複雑になる部分なのですが、低負荷だからと言って正しくできるとは限りません。やろうとしてもその動作が出来ないということはよくあることです。ある動作においては、近畿圏内からトップ中学生が集まる洛南生であっても正しく動作が出来るまで2,3か月かかるそうです。
トレーニングというのは辛抱強くやり続けて、私の感覚では4-6週間くらいで適応し始めるという感覚がありますが、もちろんそれは何をやるかにもよります。私が4-6週間というのは細かく段階を踏んでいけばの話であり、ものによっては2,3か月かかるというのは当然のことです。
そして、繰り返しになりますが、低負荷だからと言ってすぐにできるとは限らず、正しくできるまでには2,3か月かかるというのも一つ面白い点かなと思いました。トレーニングというのは出来るかできないかだけではなく、場合によっては正確性も求められるということです。
学んだことその2:基本の徹底
これは私の在籍時代からそうでしたが、基本を徹底するというところが変わっていないなと感じました。洛南高校の短距離では毎日毎日腕振りの練習をやります。腕振りなんて当たり前ですが、どうやって振れば良いかみんな知っています。でも、知っているのと出来るのは違います。これを反復するというのも参考になるなと思いました。
基本の徹底と低負荷、高頻度もやはり通ずるものがあると思います。低負荷だけど正しい動作を何回も反復することが競技力の向上には必要だということなのだと思います。長距離走、マラソンにおいても正しい動作で走るということは非常に大切ですし、また基本となる低強度走や中強度走を反復するということももちろん大切なことです。
そのあたりは短距離走も長距離走も同じことだということでしょう。流しも言ってみれば、低負荷、高頻度でレースペースの動きを確認しておきましょうということだと理解すると分かりやすいです。
そういう意味でいえば、マラソンレースペースで10キロ走る程度なら中強度におさまるという市民ランナーさんも多いですが、この場合もそれならば正しい動きでマラソンレースペースで10キロ走るということを反復すれば着実に力がつくはずです。
学んだことその3:鉛直方向の力と水平方向の力の組み合わせ
鉛直方向とは真上のことであり、水平方向とは真ん前のことです。ランニングというのは前に進むスポーツですから、最終的には真ん前に力を変換していくわけですが、その過程においては真上方向の力というのも意識する必要があります。
最近は体の真下に接地して、地面から反発をもらうということがやたらと言われるようになりましたが、これも言ってみれば真下に力を加えて真上の力を出すということです。
長距離走においてはあまり地面から反発をもらうという意識は必要がありませんし、基本は体重移動で前に前にと進むことですが、それだけであれば体が前に突っ込みすぎてかえって推進力が妨げられるということもあります。意識の段階では真上と水平方向の両方の意識を持っておくことが必要であり、洛南高校の短距離のトレーニングもその両方の力の出し方が学べるようなトレーニングが入っていました。
学んだことその4:正しい動きと間違っている動きをはっきりとさせる
「何が正しいかなんてわからない」とか「正しいとか間違っているなんてない」という人もいますが、私はやっぱりそれはおかしいと思います。どんな練習をするにしてもその練習の意図や目的、適切な動作、適切な負荷というものがあるはずであり、それをクリアできなかったら間違っているはずです。
洛南メソッドを見ていると柴田先生が「○○という意識でやっている選手は間違いです」とか「○○な動きになっている選手は間違いです」とおっしゃっている場面が多々ありました。こうやって、何が正しくて、何が間違っているかを明確にしてもらえることは選手としてはものすごくありがたいことです。
もちろん、頭で理解することと体で実際にできることは違います。特に、私のように運動神経が脳みそが発達に追いついていない人間にとっては頭で理解することと実際にできるようになることの間には千里の隔たりがあります。それでも、今自分が正しいのか間違っているのかを理解し、間違っているのであれば、正しい動きとはどのようなものかを教えてもらえるのはありがたいです。
学んだことその5:練習の目的は練習の結果に優先す
これはそり引きというトレーニングをしていた時の柴田先生のコメントにあったのですが「最終的なゴールを考えれば、速く動くよりも大きく動くことの方が大切」とおっしゃっていた場面がありました。そり引きというのは鉄のそりをひもで腰に結びつけてそれを引くトレーニングなのですが、重しを背負う場合、ややピッチを優先させて速く動いた方が速く走れます。
ただ、レースでの動きを考えるとピッチ過多にならずに、おもりを背負った状態で大きく動かすことが最速で走るよりも大切であるとのことでした。
このように、最終的なゴールから逆算して、練習を考えるということの重要性も改めて認識しました。
考えてみればミニハードルも同じ考え方かもしれません。ミニハードルの間隔を狭くするということはあえてストライドが伸びないようにして、速く走れない状況を作るということです。
ですが、敢えて速く走れない状況を作ることで、正しい神経回路の構築や敏捷性の向上など、必要な要素をクリアできると考えれば、やはり練習の目的は練習の結果に優先すと言えそうです。
長距離走、マラソントレーニングにおいても練習でのペースを遅くすることで試合の結果が良くなることは多々あります。練習の目的を達することは練習での結果そのものに常に優先するのです。
私が主に学んだ部分は以上の5点です。あとはネタバレになるので書かなかった部分もありますが、正直なところ私は短距離をやる訳ではないので、直接的に使えるなと思った部分は決して多くはありませんでした。
器具の問題もありますし、すべてが私に出来る練習ではありません。ですが、トレーニングに対する基本的な考え方というものを学ぶことが出来たという点においては非常に有意義な学びが得られました。
また、改めて思ったのはたまたま洛南高校は強くなってしまい、今では優秀な中学生しか入らなくなっていますが、多分遅い子が入っても速くなるんだろうなということです。トレーニングの目的というのが明確になっており、この練習ではこれをやれば良いというのが明確になっていました。
繰り返しになりますが、出来るかできないかは別です。それは別の話ですが、出来ないにしても、一つの練習において意識するポイントや習得したいことが1つに絞られているので、これならできるようになる可能性が高いだろうなと思いました。
走るという競技は見た目にはただ走っているだけです。難しいことなどなにもないように見えます。しかしながら、見た目はただ走っているだけだからこそ実際は難しいのです。ただ走っているだけだからこそ、専門家の人について速く走るために必要な要素を分解して教えてもらわないと何をやって良いのかよく分からないのです。
ですから、私も短距離は教えられません。それはなぜかというと短距離走が速くなる要素と長距離走が速くなる要素は全然違うからです。共通する部分もあるけれど、違う部分の方が大きいです。
ただ、共通点としては長距離走にしろ、短距離走にしろ、速くなる要素をいくつにも分解して、それをもう一度組み立てているのだなということが分かり、私的には満足しました。
そうやって、細かい階段の一段に分解して、クリアしやすいようにしているのです。このトレーニングに対する考え方自体は長距離も短距離も同じだということでしょう。
そして、やはり高いレベルに到達しようと思えば、基本の徹底、この一言に尽きるのだということがよく分かりました。飽きもせずにいかに基本を反復できるか、ここに尽きるのだなと改めて理解することが出来ました。
というわけで、今回は短距離のオンラインスクールを視聴して学んだことをお届けさせて頂いたのですが、長距離走、マラソンが速くなりたい方にお知らせです。現在拙著『長距離走、マラソンが速くなるためのたった3つのポイント』(1000円)という書籍の原稿データをPDFファイルで無料でプレゼントさせて頂いております。
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