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執筆者の写真池上秀志

洛南高校2年連続9回目の日本一の2つの秘密に迫る

 洛南高校がインターハイ陸上競技で2年連続9回目の優勝を果たしました。本当におめでとうございます。私も見ていて思うのですが、確かに高校のスポーツにはめぐり合わせというものがあります。例えば、今で言えば佐藤圭汰君のような選手とか上野雄一郎さん、佐藤清治さん、桐生祥秀などは育てようと思っても育てられるものではないと思います。


 でも、一方で2年連続9回目の優勝というのはめぐり合わせでは無理なんです。優勝回数も凄いですけど、私が在籍した2009年からずっとほぼ途切れなく総合3位以内、インターハイチャンピオン、国体チャンピオンが出ています。これはもうめぐり合わせだけの問題だけではなく、確実な育成力を以てしないと無理な成績です。


 では、何故ここまで洛南高校陸上競技部が強いのかということを切り口に、今日は私たちのランニングにも活かせる部分を考えたいと思います。では、洛南高校陸上競技部が何故かくも強いのかということですが、理由は大きく分けると2つあります。


1つ目は、間違いなく言えるのが伝統の力です。私が洛南高校陸上競技部に在籍した時は、中島道雄先生という方が先生でした。この中島道雄先生が洛南高校に来たとき、洛南高校は関西3大ワル校の一つと言われ、冬になるとグランドで生徒が机を燃やして暖を取るくらい荒れ果てていました。初めは部員が3人しかおらず、一番速い子でも5000mが18分台、しかも体罰のせいで初日に全員辞めたそうで、それを何とか「俺が悪かった」と謝ったり、なだめすかしたりして戻ってきてもらったそうです。


 ちなみに、体罰に関して言うと、最近でこそ体罰は弱い者いじめという風潮が強く、そして、ほとんどのケースにおいてそれは事実なのですが、昔は生徒が教員に暴力をふるっていた時代ですから、お互い様なところもあった時代です。普通にそんな学校嫌ですよね。


 そんな訳で、初めは勧誘にも苦労したそうですが、当時の校長先生が勉強と部活動を二つの軸に据えて学校改革に取り組み、徐々に学校自体が良くなっていきました。今でも、その方針は生きており、一芸に秀でた生徒が入学できる制度になっています。そのおかげで陸上部も陸上さえ出来れば入学できるようになっていますし、何よりも歴代の先輩方のご活躍のおかげで今や洛南高校陸上競技部は中学生からあこがれの的です。昔は洛南高校と言えば、親から「大事な息子をそんなところに入れられません」と言われたそうですが、今では完全に立場逆転です。


 伝統の力というのは、選手の勧誘だけの問題ではもちろんありません。先ず第一に技術面として、新入生は高校に入って一番初めに見る高校生たちが日本一の人たちなんです。日本一の人の動きを目で見ることが出来ます。人間って面白いもので、目で見たものは出来る可能性が高いんです。知らず知らずのうちにそうなるんですよ。だから、技術の習得が恐ろしく速いです。今の洛南高校短距離パートの柴田先生も「年々指導が楽になってる。こっちが一から教えなくても、先輩がやってるのを見て勝手に出来るようになる」とおっしゃっていました。


 それから心理面です。これは私も経験したのですが、日本一が毎年出るチームにいると、インターハイすら出れないってめちゃめちゃザコに思えてくるんです。ちなみに私は1500mと5000mで近畿インターハイ9番にしかなれず、物凄く落ち込みました。チームに迷惑をかけてしまって本当に申し訳ないと心の底から思いました。真面目に万引きくらいの罪悪感がありました。でも、これが地元の学校に行ってたら近畿で9番ってクラスのヒーローですよね。


 これは今でも皆さんにお伝えしていることですが、人間は大きなヴィジョンを持ちすぎて挫折するのではありません。小さな目標を立てすぎてそれを達成してしまうのです。私の場合は確実にインターハイ入賞を目標に3年間やったからこそ、近畿で9番になれたし、大学に行ってハーフマラソンで日本ランク69番、プロになってからもマラソンで日本ランク42番になれたと思っています。さらに言えば、私自身は自分の競技人生を振り返ってもやはり、失敗だという気持ちが強いです。だからこそ、ここからまだ更に改善していきたいという気持ちを持てています。


 これが伝統の力です。毎年インターハイチャンピオンが出るから、自分も何とかそこに行こうと本気で思えます。そして、本気でそう思うと人間色々とクリエイティブなアイディアが出てくるんです。「これさえやれば、日本一になれる」みたいな絶対的な処方箋はないのですが、その中でも「このままでは駄目だから、何かを変えてみよう」とか「新しいことにチャレンジしてみよう」と思うことが先ずは大切なんです。


 そして、これも重要なことなのですが、洛南生には先輩方を敬う伝統があります。上下関係の厳しさもあるのですが、1つ上とか2つ上だけではなく、歴代の先輩方をしっかりと尊敬し、自分たちもそうなりたいと思う風土があります。はっきり言ってレベルがどんどん上がっているので、歴代の先輩方よりも競技レベルは高いです。ただ、それでも自惚れるのではなく、自分も歴代の先輩方に恥じない選手になりたいという学ぶ姿勢が育まれているのも大きいと思います。結局人間って、相手を尊敬し、敬うと何かしらは学ぶことってあるんです。仮にそれが反面教師でも良いと思います。相手を敬い、よく話を聞いて、観察することで学びが得られます。たとえそれが反面教師だとしてもです。ところが、弱い学校に行ってしまうと「お山の大将俺一人」になってしまうので、なかなか謙虚な気持ちになりにくいです。


 そして、二つ目はこれも伝統の力と重なる部分はあるのですが、指導者です。間違いなく、指導者の力は大きいです。というよりも高校生は半分以上指導者です。なんかやっぱり、これをこうやれば、こうなるというのが経験の積み重ねとして頭の中とか潜在意識の中に残ってます。そこに、現代のレベルとか用具の進歩に合わせて推論を加えながら、やっていくわけですが、やっぱりなんだかんだ言って、知識とか経験を集積している人にはなかなか勝てないです。これも面白いもので、ただ単に長くやるだけでは駄目なんです。


 ぼんやりと指導しているだけでは、良い指導者にはなれません。色々なところにアンテナを張って、情報収集して、勉強して、選手をよく観察して、そして結果につなげていく、これを何年も繰り返しておられる先生方が指導しておられるので、やっぱり洛南高校は三浦君や佐藤君のようなスーパースターがいなくても今後もずっと強く在り続けると思います。月並みな表現ですけど、やっぱり伝統と指導力この二つにつきます。後のトレーニング方法とか生徒指導とか、技術面とかはこの伝統と指導力の下に全て広がっていくものであり、「洛南高校はこんな動きづくりをしている」とか「洛南高校では全員坊主刈り」とかそんな表面的なことだけを見ても分からないと思います。


 さて、最後にあなたの立場になって考えてみましょう。私たち大人の市民ランナーはインターハイで総合優勝を目指すのとは少し違います。先ず第一に、ほとんどの人にとってランニングは趣味なので、洛南高校のように伝統の力を借りられるようなチームに所属したり、優秀な指導者を自分で雇えるわけではありません。


 第二に、大人になると感性や感情の働きよりも理性や論理の働きの方が強くなります。子供の間は「良いからやりなさい」で通用するかもしれませんが、大人になるときちんと理論を理解して、今自分が何をやっているのか理解しないと、やる気にもならないし、ただ漠然とやっているだけで速くなることは、初めのうちはあっても、力がつけばつくほどそこから上に行くことは難しくなります。


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今日は9時15分から3000mSC決勝です。三浦君のレース楽しみですね!

ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志


追伸

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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