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執筆者の写真池上秀志

事例から学ぶ今日の練習の決め方

 突然ですが、あなたは長距離走、マラソンにおける効率的努力の要は何かと聞かれたら、なんと答えますか?


私は迷わずに練習の組み合わせを考えることだと答えます。


 実際、同じように努力をしてもこの練習の組み合わせで目標とするレースでの結果は大きく変わります。私自身、現役生活を振り返って、少なくとも高校入学以降はずっと同じ気持ちで真剣に取り組んでいました。あの時、自分に負けてしまったとか、もっと頑張っておけば良かったと思うことはありません。


 それでも、結果が出る時と出ないときの差は非常に激しいものでした。結局は、長距離走、マラソンも将棋に似ています。プロ棋士の方は全員本気でやっています。手抜きをしている人なんて一人もいないでしょう。それでも、白黒分かれるのは、将棋の駒の動きの組み合わせによるものです。


 ただ、指しているまさにその時、勝負の真っただ中にいるときは、最善手というのが分からないものなのでしょう。私のような素人があとから感想戦を見ながらあの時こうしておけばと言うのも将棋の楽しみ方の一つではありますが、プロ棋士というのは分からない中でも常に最善手を求められる決断の連続です。


 ただ、ここではっきりとさせておきたいのは、何が最善手であるかが常に明らかでなかったとしても、将棋には強い人と弱い人がいるということです。つまり、分からないから何も分からないではなく、常に最善手を選ぶことは難しいかもしれないけれど、明らかにその習熟度に差はあるということです。


 長距離走、マラソンもこれと同じです。確かに、何が最善手であるかは、分かりません。でも、一つ確実に言えることは、今日の私の決断が次のレースの結果に繋がっているということです。だからこそ、私は市民ランナーになった大学生の頃から毎日の練習は頭がしびれるほど真剣に考え抜いてきました。


 ちなみに、大学生の頃から自分で練習を考えて、一人でやっていたので、市民ランナーであることに変わりはなかったのですが、一応陸上競技部に一年半ほど籍は置いていました。陸上競技部にいた頃は、やたらと自分勝手で自己中なやつだと言われたものです。


 それは、全ての練習を一人でやっていたからです。ただ、当時のチームは全員自分で自分の練習を考えてやることが認められていましたし、何よりも私と同じレベルの選手は一人もいませんでしたし、同じだけの意欲を持った選手も一人もいませんでした。つまり、はなっから練習相手などいなかったのです。


 何故、そんなに私ばかり自分勝手で自己中なやつだと言われなければいけないのか、全くもって理解は出来ませんでしたが(今でも理解できませんが)、一つの事実として残っているのは、私は毎日自分の練習を頭がしびれるほど真剣に考え抜いて最善手と信じる練習のみをやり、周囲からの圧力を受け入れられなかった私は二回生の途中で退部して、結局私だけが強くなったということです。


 これは市民ランナーになった今でも変わりはありません。好きだから走るというのが根本にありつつもどうせやるなら、効率良くやりたいのは当然です。そんな訳で、現役時代ほどではないにしても真剣に考えます。


 それでももちろん、悩むこともあります。今回はそんな私がある日の練習を悩みながらも最終的にどのように決断を下すのかという思考の過程をお見せすることで、読者諸兄の皆様のご参考にもなりますと幸いです。


 最近、私が一番頭を悩ませたのはこの前の水曜日、9月28日のことです。ここまでの状況を簡単にお伝えさせて頂きますと、7月の最後に京都選手権の5000mを含む、5キロのタイムトライアルを何本かやり、無事に起業後ベストの14分40秒も出せて、しばらく休養をとっていました。


 8月の上旬から、少しずつ低強度の持久走と流しという基礎作りから始めて、先ずは練習量を少しずつ増やし、そこからさらに低強度から中強度の持久走や中強度の持久走、そして流しを中心に体を作っていきました。


 高強度な練習は10キロと12キロのテンポ走が一回ずつ、200m20本のショートインターバルと400m20本のショートインターバルが一回ずつ、3分速く走って90秒ジョギングのファルトレク6本が一回と3分90秒10本のファルトレクが一回、5000mの記録会が一回という内容です。


 この程度の練習しかしておらず、1キロ3分を切るような練習は二回のショートインターバルと流しくらいしかやっていなかったので、記録会は15分を切れば合格、4000mまで余裕をもって走り、最後の1000mを2分50秒から2分45秒で走れれば100点と思っていましたが、これは出来ず14分55秒でした。


 この記録会が9月25日のことです。この次の日の練習は30キロの中強度走です。これは私のお気に入りの組み合わせで、テストレースや練習レースの次の日によく距離走を入れます。そして、次の日、つまり火曜日は積極的休養です。


 現在は11月20日のハーフマラソン(磐田)に向けて準備をしており、優先事項としては質の高い練習を増やしていくことにあります。とは言え、まだそこまで質の高い練習をたくさんやっていないので、先ずは段階を踏んで6分速く走って、2分ジョギング6本のファルトレクをやりたかったのですが、問題は今週はサブトラックが水曜日しか使えないことです。


 質の高い練習の量を伸ばしていきたいのはもちろんですが、まだ基礎スピードも十分とは言えません。ショートインターバルをやるなら水曜日です。でも、この日の練習はファルトレクが良いのではないかなと私は思っていました。


 また、そういった思考の過程をたどっていくなら、2000m6本のインターバルでも良いのではないかとも思いました。なんだかんだ言っても、一番集中できるのはトラックです。一般の通行人や自転車が通らず、高校生も練習していて活気があるのはトラックです。ハーフマラソンにとっての重要度で言えば、2000m6本の方がショートインターバルよりも高いので、2000m6本もありだと思いました。


 ただ、問題はそうすると、5000mのレースと刺激がややかぶってしまうということです。原則として、同じような負荷、それも高負荷をかけるとオーバートレーニングのリスクが高く、練習効果は低くなってしまいます。ここまで走り込みを中心にやってきているので、5000mが14分55秒でしか走れなくても、2000m6本の最後の方は1キロ3分ペースでは走ります。


 もちろん、スタートはもっと遅く走りだすので、やや刺激はずれますが、それでも1キロ3分5秒とかだと刺激の種類としては非常に近しくなります。それなら、休憩を挟まずに12000mのテンポ走にするのも一つの選択肢として浮上してきます。これなら、明らかに5000mのレースペースよりは遅くなるでしょう。


 ただ、10キロと12キロのテンポ走はすでに1回ずつやっているので、出来ればもう少し新しい刺激を入れたいというのは事実です。そうなると、やはり6分2分6本のファルトレクになります。しかし、そうなるとトラックが使えるなら2000m6本の方が良い、と徐々に私の頭の中で議論がどうどう巡りになってきていました。


 ちなみにですが、私の直感は2000m6本だと言っていました。思ったよりもダメージは少なく、感触も良かったので2000m6本でもいけると直感は言っていました。また、ハーフマラソンに出るなら重要度はこちらの方が高いです。


しかし、こんな言葉があります。


「ベテランのパイロットは計器に頼り、未熟なパイロットは直感に頼る」と


 一見、反対のように思えますが、実は計器に頼った方が正確だということです。では、長距離走、マラソンにおける計器とは何でしょうか?


それは原理原則です。


私はもう一度トレーニングの原理原則を思い出しました。


 まず、一週間以内に同じような刺激の高強度な練習をやるのは良くないという原則があります。そうなると、5000mのレースに近い刺激は外したい訳です。逆の言い方をすると、5000mのレース刺激よりも遠い方が良い訳です。


 そうなってくると、12000mのテンポ走かショートインターバルが妥当な線となります。12000mのテンポ走なら明らかに5000mのレースペースよりも遅いペースで距離も倍以上あります。逆に400mを200mつなぎでやるような練習は、明らかに5000mのレースペースよりも速く、なおかつ一回に走る疾走距離は明らかに短く、そして明らかに休憩が多いです。


 その他の原理としては、常に一般性から特異性へと仕上げていくというものがあります。更に掘り下げてみていくと、先ずは基礎スピードと基礎持久の両面から骨格を作っていくことが重要となります。


 現在の私を客観的に見て、基礎持久はすでに十分ですが、基礎スピードはというと不足しています。200m20本と400m20本を一回ずつやっただけでは充分とは言えないでしょう。また、最悪状態さえ良ければ基礎スピードと基礎持久さえできていればレースは走れます。特異的な練習はやった方が良いですが、必要ではありません。


先ずは最低限の状態を作るなら基礎スピードです。


 更に、他の原則も重視するならトレーニングの負荷は段階的に、なるべく連続的に増やしていかなければいけないというものがあります。質の高い練習量を増やしたいのはやまやまですが、ここまで3分1分半6本と3分1分半10本のファルトレクを一回ずつしかやっていません。


 ここで、いきなり2000m6本に持って行くのは性急すぎで、先ずはよりリラックスして、余裕をもって取り組むファルトレクから始めるべきです。このように考えると、2000m6本は選択肢から消えます。


 更に、今週は水曜日しかトラックが使えないのであれば、その日にファルトレクをやる妥当な理由は見当たりません。このように考えると、答えは400m20本になります。結果論ですが、これで正解だと思います。400m20本でしっかりと基礎スピードの戻りが確認できましたし、動き的にもここで速い動きをすることで腰の位置が高くなり、そのまま6分2分6本のファルトレクに持って行くことが出来ました。


 また、タイムを気にしないファルトレクにすることで、ペースを気にせずにレースのイメージを明確に持つことが出来ました。インターバルにしろ、ファルトレクにしろ、一番重要なのは、レースのイメージを明確に持ってレースで使えるものを作ることです。


 ですが、もしインターバルにしてタイムを取っていたら、現在の自分の力ではまだそこまで走れなかったはずなので、時計を見て力んでしまい、レースのイメージを持つよりも今この本数を速く走ることに注意がいっていたと思います。


結果論ですが、全て丸く収まったように思います。


 原理原則を重視することの利点は二つあり、一つは思考を単純明快にすることで決定疲れを少なくすること、そして、二つ目は上手くいく確率が上がることです。二つ目に関しては説明する必要はないと思います。


 一つ目に関して言えば、私もそうですが、皆さんも自分のお仕事で様々な決断を下さないといけないと思います。その中のいくつかは非常に重要な決断だと思います。こういった決断を繰り返していると脳が疲れてきます。その結果、疲労し、集中力が低下します。仕事やランニングに対する意欲の低下にもつながります。


 常に、原理原則を頭に入れておくと、思考が単純明快になっていくので、脳にかかる負担も少なくなり、より重要な走ることそのものに集中することが出来ます。トレーニングの原理原則、是非大切にして下さい。


 昨日150部限定でリリースさせて頂いた新刊書籍『長距離走・マラソンの為の栄養学』、早速40部売れました。本当にありがとうございます。鉢伏合宿明けに発送させて頂きますので、今しばらくお待ちください。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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