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執筆者の写真池上秀志

ファルトレクのすすめ

更新日:2021年10月16日


 今回はファルトレクという練習方法について書いてみたいと思います。あなたはファルトレクという言葉は聞いたことがあるでしょうか?海外では一般的に行われている練習ですが、日本ではあまり取り入れられていない印象です。ですが、使い方次第でとても有益な練習になりますので、ぜひこの機会に知ってください。


 ファルトレクというのは、語源はスカンジナビアの言葉です。ファルトとレクの二つの言葉から成り立ち、ファルトは速度、レクはレクリエーションのレクのことで、遊びという意味です。スウェーデンの方では子供がペースを上げたり下げたりする遊びがあるそうです。何が楽しいのかと若干思わなくもないのですが、きっとみんなでかけっこして、疲れたらペースを落とす、元気になったらまたあの木のところまで勝負、みたいなことを繰り返しているのだと思います。


 そんなわけで、ペースを上げたり下げたりするのがファルトレクという練習です。気の向くままにペースを上げたり、下げたりというのももちろんファルトレクの一種なのですが、通常はもう少しシステマチックに取り入れます。例えば、1分速く走って、1分ゆっくり走るのを25セット繰り返すとか、3分速く走って、1分半ゆっくり走るのを10回繰り返すなどです。これらのトレーニングは25x1’/1’や10x3’/1’30’’のように記されます。私たちのグループでは5x30’’/1’-5x45’’/1’-10x1’/1’-5x45’’/45’’-5x30’’/30’’などをよくやっていました。このように異なる長さのファルトレクを組み合わせることで、飽きないというメリットもあると思いますが、私はあまり好きではありませんでした。理由は単純で、ややこしいからです。せっかくタイムなどの細かいことを気にしなくて良い練習なのに、次は45秒だっけ?、次は1分だっけ?などと考えるのが好きではありませんでした。


 私が初めてファルトレクをやり始めたのは高校2年生の時でした。洛南高校ではジョグは2、3人のグループを作ってやるのが慣例でした。一年生はウォーミングアップが終わると「〇〇さん、ジョグの方ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」と聞いて回り、必ず先輩と行かなければいけないというルールがあって、自由がありませんでした。時には聞きに行った先輩が「今日は俺一人で走りたいからええわ」とか「今日は俺〇〇と走るねん」と言われることもあります。その場合は、また別の先輩に聞きに行き、先輩と行けるまで聞いて回らなければいけないというルールがありました。


 ですが、私はその時はもう2年生でした。そこで、練習表に50分ジョグとか書いてあると勝手に上り坂でバウンディングをしたり、下り坂で流しをしたり、3分間ペースを上げてまた落としたり、色々とペースに変化をつけることにしました。程なくして、それを見ていた顧問の中島道雄先生がファルトレクを練習に入れだしました。私は先輩に何も言われないようにこっそりやっていたつもりでしたが、先生はよく見ておられました。


 さらに大学3回生になって現在のコーチ・ディーター・ホーゲンの指導を受けるようになってからは、定期的にファルトレクが練習に組み込まれるようになりました。主なパターンとしては25x1’/1’、15x2’/1’、10-12x3’/1’30’’です。では、このファルトレクにはどのような利点があるかということですが、以下の通りです。


・不整地や起伏のあるコースでも取り組める

・自分の感覚に従って走れる

・タイムが悪いと失望することがない

・自分の好きなコースで距離がわからなくてもできる


 などの利点があります。これは小さいようで大きな利点です。まず私がファルトレクを多用するパターンですが、これはシーズンの序盤や故障明けでまだ体が仕上がっていない時です。この時点では、走れるわけがありません。故障明けだから走れないというのを言い訳と捉える人もいるかもしれませんが、私からすれば準備もできてないのに走れると思う方が甘いです。準備ができていないんだから、いきなり走れるわけがありません。この段階では走れない自分に失望したり、時計を見て無理やりタイムを合わせにいってオーバートレーニングになったり、力んだりといった結果になりやすくなります。そうすると、ますます走れなくなるので悪循環です。


 練習で大切なのは、タイムではなく目的とするトレーニング刺激を体に与えることです。この観点からすると、体が仕上がっていない時点ではペースは遅くても良い練習になるんです。そして、何よりもリラックスして速く走る動きを体に覚えさせることが大切です。また、まだ体が出来上がっていない時点では故障のリスクも高く、徐々に戻していくことが大切なのですが、この時に芝生や土の道など下が柔らかいところを選んだ方が、故障のリスクは低いです。また脚筋力を戻すためにも起伏のあるコースを入れた方が良いのですが、この観点からもファルトレクはオススメです。距離が分からなくてもタイマーさえあればどこでもできます。ただし、アスファルトで勾配の大きな下り坂を入れることは故障のリスクが大きいので避けるようにしてください。


 また、ファルトレクはインターバルを予定していたけど、体が疲れている、もしくは風がきついという時にもオススメのトレーニングです。800mの世界記録保持者のデイヴィッド・ルディシャ選手は、インターバルを予定していても朝起きて疲れていると感じたら、ファルトレクに切り替えます。練習は継続が大切で、線で繋がっていれば問題ありません。むしろ一回一回のタイムは良いけど点と点でぶつ切りになっているよりもはるかに良いです。そうであれば、今日は自分が思うような速さでは走れないと思ったら、感覚に従ってオフロードでファルトレクをするのも賢い選択の一つです。


 ちなみに逆にファルトレクが適さないタイミングもあります。それはレース直前です。私は自分の体調を正確に知るためにも、レースの6週間前くらいからは、インターバルや変化走を好んで使います。時にはレースに出ることもあります。レースの6週間前ということはすでに基礎トレーニングをたくさん積んで、体がある程度仕上がっている状態です。このタイミングでは一キロ3秒でも大きな狂いです。同じ感覚で走っているのに、一キロ3秒も遅いとなると黄信号です。体が疲れているので、早めに疲労を抜くようにしなければいけません。同じ感覚で走っているのに、一キロ5秒も遅いとなるともう赤信号です。風が強ければ問題ありませんが、前回の練習と同じような風の強さや風向きであれば、明らかに疲れ切っています。早急に練習を軽くしないといけません。もちろん、感覚よりも速ければ何の問題もありません。


 あくまでもタイムに無理やり合わせにいくのではなく、自分なりの感覚で走り、タイムとのズレを見て体調を判断していきます。この段階では私はファルトレクはあまり使いません(時と場合に応じて使うこともありますが)。


 さて、ファルトレクといえば、私の思い出に残るのはケニアでのファルトレクです。ケニア人は基本的に時間にルーズで、30分くらい遅れてきたり、来なかったりすることも普通なのですが、火曜日と木曜日の午前9時だけはぴったりとファルトレクが始まります。それも5人や10人ではありません。ざっと50−200人は毎回、どこからともなく現れます。乾いた赤土を大集団で一斉に走るので、土埃が舞い(スワヒリ語でこの土埃はフンビ、たくさんはカジというので「カジフンビ」とよく言っていました)、走り終わるといつも顔が赤土ぼこりにまみれ、大出血したみたいになっていました。




 男子も女子も、トップランナーも三流選手もみんな一斉にスタートして、それぞれのペースで走り、そしてどこからともなく集まってきたように、どこへともなく解散していく、そんなファルトレクでした。そうやって考えると、日本人はきっちり集合時間に集まり、直立不動で先生の話を聞き、全員で掛け声を合わせて一糸乱れぬウォーミングアップをして、トラックで正確に設定タイムを刻み、クーリングダウンをして、最後は指導者に挨拶して解散です。ケニアと日本は全然違うなと思いました。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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