ランニングは他者との接触(体当たりとかスライディングとか)がないかわりに、自らの体を酷使する競技で、実はスポーツ内傷が多い種目です。競技者の間では、いかに故障せずに練習を継続するかがカギであり、故障なく練習を継続するということが、結果を出すための最低条件にもなってきます。
しかし、そんなことは誰しも分かっていることなのですが、どれだけ気を付けていてもしてしまうのが、故障です。故障からの復帰は早ければ早い方が良いですし、好きで走っている訳ですから、痛めてしまったら一日も早く復帰したいと思うのが、人情です。今回はそんな故障からの復帰にLLLTが役立つのかどうかということを書いていきたいというふうに思います。
故障のメカニズム
故障というのは身体にとっては、組織の損傷以外の何物でもありません。火傷、打ち身、擦り傷、シンスプリント、鵞足炎、これらは我々の言語では全て違う言葉で表現をするのですが、体にとっては全て組織の損傷として認知されます。組織の損傷という言葉が分かりにくい方は、細胞の損傷だと思っていただけると分かりやすいかと思います。
組織の損傷が生じると先ずは炎症誘発物質が分泌されます。炎症誘発物質は警告シグナルで日常生活で言うなら、携帯電話の地震速報とか警報アラームです。この前の大雨の時に、皆の携帯電話が一斉に鳴り響いて、館内放送かな?と思うくらい鳴り響いていたのですが、イメージとしては、そんな感じです。一斉に「ヤバいことが起きてるぞ!」と知らせてくれる訳です。
そして、その警告シグナルが脳に到達すると、その警告シグナルが起きている箇所に多くの食細胞を送り込みます。食細胞とは、好中球、白血球、マクロファージなどの異物や細胞の死骸を片付けてくれる細胞たちです。この時に、これら食細胞をよりスムーズにたくさん患部に送り込むために、血流が増します。この血流の増加は免疫細胞をたくさん送り込むだけではなく、患部での細胞の死骸を除去する為でもあります。患部に多くの血液を送り込み、そこで多くの細胞が活動をするので、患部は熱を持ちます。それから、多くの血液が流れ込むので、膨れあがります。これが腫れです。それから、そこだけ血流が増すので、赤くなります。これが発赤です。それから、そこだけ血流が増して、膨れ上がるので痛覚神経を刺激します。これが発痛です。それから、この箇所の治癒過程を促進させるために、体がこの箇所を固めます。これが機能制限です。
という訳で、通常急性期の痛みには、腫れ、発赤、発熱、発痛、機能制限の5つのサインを伴います。そして、まず初めの炎症反応が起きて、いったん初めの騒動が収まると新しい細胞が増殖され、最終的には新しい細胞に生まれ変わり、新しい組織が形成されます。ここまでが治癒の一連のプロセスです。初期の炎症反応というのは、掃除だと思ってもらえると分かりやすいです。新しい組織を作り上げる前に、現在の損壊箇所を片付けないといけないということです。完全に、建物が壊れてそれをもう一度立て直すのと同じです。
慢性的な痛み
次に慢性的な痛みについて、見ていきましょう。慢性的な痛みは通常は発赤、腫れ、発熱、痛み、機能制限を全く伴わないか、マイルドにしか伴いません。私の経験上、長距離ランナーの故障のほとんどが、この慢性的な痛みに分類されるもので、発赤、腫れ、発熱は伴わないことがほとんどで、痛みと機能制限のみを持っている状態です。
痛みに関しても、触っただけで痛いとか言うことはなく、走り始めは痛いけど、その後痛くなくなって、走り終わって冷えてきたらまた痛くなるというケースが多いです。機能制限に関しても同様です。明らかな機能制限というほどではないのですが、やはり本来の動きを失ってしまい、走りのバランスを崩すということが往々にしてあります。これらにはそれぞれ理由があるので、順番に見ていきましょう。
先ずは、何故痛みがなかなかひかないのかということですが、理由の大きなものとしてはたいてい浮腫が患部に残っています。この浮腫をどうとらえるかは、難しいところで、炎症と言えば炎症反応ですし、炎症反応ではないと言えば炎症反応ではありません。どういうことかというと、腫れ、発赤、発熱、痛み、機能制限を伴う古典的な炎症反応ではないからです。上記の5つのサインを一つも伴わないものも中にはあります。で、この浮腫のメカニズムとしては、一応炎症反応と呼べるものは起きているんです。これを低度で慢性的な炎症反応というふうに呼びます。
ただ、浮腫そのものの多くは、免疫細胞の死骸がそこにととどまって、流れていない状態です。急性期の炎症反応における一連の治癒過程は建物で言えば、どっかに爆弾でも破裂して、色々とがれきが散らかっている状態から先ずはそのがれきを撤去して、それから新しい建物を建てていく過程です。ところが、浮腫というのはそのがれきが撤去されていない状態がずっと続いている状態です。
まず、免疫細胞が患部に送り込まれて異物を片付けたりする訳ですが、その時に役目を終えた免疫細胞の死骸やそもそもの組織の死骸がそこにある訳です。それをまた食細胞に片付けてもらわないといけないのですが、それが完全に除去されずに患部に残るんです。そうすると、しこりとして残り熱や発赤もないし、ちょっと触っただけで痛いということはないんだけれど、抑えると圧痛が生じるという状態になります。実は筆者もかつては足底筋膜炎を4年間くらい患っていたのですが、親指の頭くらいの浮腫をずっと足底に持っていました。今でも、若干その後は残っています。
で、その浮腫が痛覚神経を圧迫します。痛覚神経を圧迫すると当然痛みが生じます。傷みを感じると、脳みそが痛みを感じる箇所に炎症を起こすように指令を出します。炎症反応が起きると痛みを感じます。痛みを感じると脳が痛みを感じる場所に炎症反応を起こすように指令を出します。このようにして、負のスパイラルが生じているのが、低度で慢性的な炎症反応です。
このようなメカニズムになっているので、なかなか治りません。では、そもそもこの負のスパイラルはどのようにして起こるのかということですが、大抵は局所貧血です。どこかで、思いっきり筋肉が凝り固まっており、数ミリ単位で貧血が起こるのです。そうすると、その箇所に浮腫が生じたり、治癒過程を促進するための必要な栄養が送られなかったり、なによりも酸素が送り込まれなくなるので、有気的代謝が不活発になります。人間の体は体温維持、呼吸、心臓の拍動など全ての運動をアデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)に分解し、更にアデノシン二リン酸を三リン酸に再合成するという過程でエネルギーを生み出しています。
ところが、患部に酸素が送り込まれないと生み出せるエネルギー量が非常に減ってしまうので、なかなか故障が治らないのです。
ちなみにですが、慢性的な痛みを抱える多くの選手が走りのバランスを崩しますが、これは無理もないことで、慢性的な筋肉の凝り固まりや免疫細胞の死骸が固まってしまうと、その箇所のゴルジ体が正常に働かなくなるからです。ゴルジ体はこの三次元空間において今筋肉や関節がどこの位置でどのように運動をしているかを脳にフィードバックしてくれる器官です。人間は走っているときはもちろんのこと、自分の体が三次元空間でどのような状態にあるかを把握しながら、脳からフィードフォアを送って、体をコントロールしています。これが出来なければ、まっすぐに立つことも椅子に座ることも出来ません。椅子に座っているときも、実はずっと固めていると細胞が死んでしまうので、常に体の位置を変えながらバランスをとっているのです。狭いとこの体を微妙に動かせる範囲が限られてしまうので、足が凝り固まったり、疲れてしまうのです。
LLLTと故障の治療
気になるLLLTの治療効果に入る前に一つ大前提として、確認しておきたいことがあります。それは炎症反応をどうとらえるかということです。先ず、急性期の炎症反応に関して言えば、治癒過程の一プロセスなので必要であることは間違いありません。ただ、人間の炎症反応は往々にして、過剰であることも否めません。というのは、未だに私たちの体は生きるか死ぬかを基準に作られているからです。
例えばですが、仮に私が今足をちょっと痛めて炎症反応が起きているとしましょう。この時、原始社会においては猛獣に追いかけられでもしない限りは、無駄に動き回ることはリスクでしかないんですね。今ここで、変に動き回ると、本当に猛獣に追いかけられたり、天災が起きて全力で走らないといけない状況に置かれた時に、不利になりかねません。で、可能性としては、これは現代社会でもありえない話ではありません。犯罪者に追いかけられるとか、津波がおきて高台に走って登らないといけないとかが、起こらない訳ではありません。
ただ、一般的にはランニングにおいては適度に体を動かしながら、復帰への段階をステップバイステップで踏んだ方が、結果的には復帰が早くなりますし、復帰後の故障のリスクも下がるので、適度に炎症反応を抑えることは必須であると言っても過言ではないでしょう。
ちなみにですが、人間は生と死を基準に作られているという参考の逆を述べておきましょう。命に危険がない限り、体は基本的には過保護に働くのですが、命の危険があるとなると、まるっきり逆に働きます。戦場では、銃弾が腹部を貫通しても気づかなかったとか、銃剣が肺を貫通しても気づかずにそのまま戦い続けたという話もあります。先述の銃弾が腹部を貫通しても気づかなかったケースでは、この方は伝令兵だったのですが、戦場で必死に戦い命からがら味方陣地にたどり着いて伝令を伝えたところまでは、何ともなかったそうです。ところが、味方から「その傷はどうしたんだ?」と聞かれて、自分の目で傷口を確かめたとたんにへなへなと力が抜けて立ち上がれなくなったそうです。
痛みのメカニズムとはこうも両極端なのです。
そして、低度で慢性的な炎症反応に関して言えば、言うまでもなく全く必要ではなく、むしろ早く抑えてしまわないと被害が拡大しています。ガンや脳卒中や心筋梗塞は、自分でも気づかないうちに体内で低度で慢性的な炎症反応が進行しており、ある日何かをきっかけに倒れたり、痛みを感じたりして、病院で検査を受けて発覚する病気です。筆者は長距離ランナーの痛みにおいても同じようなプロセスが起こっていると考えています。
それを踏まえたうえで、LLLTの治癒過程の促進ですが、分かりやすく説明すると、酸化ストレス、炎症反応、痛みを抑え、細胞で生み出されるエネルギー量を増やすことで、治癒過程を促進することです。細胞で生み出されるエネルギー量を増やすというと「ご飯をたくさん食べれば治る」と思われるかもしれませんが、それは違います。もっと局所的な話です。もっと局所的に治癒過程が滞っている状態なので、ご飯をたくさん食べてもどうしようもありません。
先ほどのたとえで言えば、結局治癒過程は大きく分けると、破壊された建物のがれきを取り除いて綺麗にすることと、そのあと新しく建物を再建することの二つの要素しかありません。このうちの破壊された建物のがれきを取り除く作業が炎症反応を抑えたり、酸化ストレスを抑えたり、ネクローシスという細胞の異常な生まれ変わりを抑えたり、痛みを抑えることです。そして、建物の再建にあたるのが、細胞で生み出されるエネルギー量を増やし、細胞を増殖、成長させ、アポトーシスと呼ばれる正常な細胞の生まれ変わりを促進することです。これがLLLTの役割です。
私の説明が雑すぎて納得できないという方は下記の図を参照にしてください。出典はハーヴァード大学教授でLLLT研究の第一人者マイケル・ハンブリン教授らが書いた『Low Level Light Therapy : Photobiomodulation』という本です。
急性期の故障とLLLT
急性期の炎症反応中はある意味では、治癒過程がもっとも活発に働いている時期であり、そう言う意味では、心配する必要はないというか、安静にしていれば快方に向かっていく時期です。ただ、この時期においてもLLLTは細胞の増殖、成長、合成、血管新生を促進するので、治癒過程を促進させます。実験では、650nmと850nmの波長を組み合わせたLLLTを骨芽細胞と筋芽細胞の両方に照射したところ、照射後24時間細胞の成長速度が有意に早まることが確認されています。
このことから言えることは、それが疲労骨折であれ、筋損傷であれ、LLLTの照射が治癒過程を早めるということです。また、LLLTは過敏になっている痛覚神経を鎮める働きもあるので、過度な痛みを感じずに済むようになります。
慢性期の故障とLLLT
慢性期の故障とLLLTに関する研究は、動物実験、試験管内実験、臨床試験ともに多くのデータがありますが、よくある研究はやけどの痕です。火傷をしてその後がなかなか治らないというケースはよくあります。実は私自身も、高校三年生の時に湯たんぽを脚に当てたまま寝て、低温火傷をしたことがあります。低温火傷の痕って全然治らないですよね。熱かったらすぐに足をどけたと思うんですけど、奥の組織までじっくりと火傷しているので、実は数年たっても痕が消えませんでした。私の場合は、足の毛も濃いし、そもそも色黒なので、傷自体は目立たず、たまに治療してもらう時に「これどうしたん?」と聞かれる程度で全く気にも留めていませんでした。
ところが、コンディショニングにLLLTを使いだしてしばらくしてから、完全に痕が消えていることに気づきました。先述の通り、体にとってはランニング障害の痕も火傷の痕も同じなので、メカニズムとしては同じです。
LLLTが慢性的な故障の治療に効くメカニズムは先ずはシトクロムC酵素に吸収されることで、電子鎖が活発に動くようになり、有酸素エネルギーの量が増えるとともに(ATP再合成量の増大)、ミトコンドリアの機能が活発になることで、異常な細胞死であるネクローシスが収まって、正常な細胞死であるアポトーシスが生じることです。これにより、低度で慢性的な炎症反応が抑えられ、傷ついた細胞が死ぬと新しく健康な細胞が生まれてきます。そして、さらにLLLTはこの新しく生まれてきた細胞の成長や増殖を促進するので、治癒過程が進んでいくということです。
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、もう一度建物の話に戻りましょう。慢性的な故障というのは何故治らないかというと、建物が壊れてそのがれきを除去し、新しく建物を再建したいのですが、作業員が無能なので、がれきをいつまでたっても除去しないかもしくは、除去するところまでは良いけれど、もう一度材料を持ってきて壊れた建物を永遠に作り続けている状態です。広島の方には申し訳ないのですが、日本人全員が知っている壊れた建物ということで、原爆ドームを例にとらせてください。原爆ドームって言われて思い浮かべられない日本人はいないと思うのですが、原爆投下前の原爆ドームを知ってる日本人ってあまりいないですよね?だから、原爆ドームの修復をしようと思っても、作業員があの日本人なら誰もが知ってる原爆ドームを再現してしまうので、雨露さえしのげないみたいなそんな感じです。
でも、原爆ドームが原爆ドームになる前の産業奨励館時代の資料もきちんと残っていますし、修復しようと思えば修復できるはずです。では、何故修復できないかというと低度で慢性的な炎症が続き、DNAに傷がついて産業奨励館時代のデータが引き出されないからです。だから、がれきを撤去してもう一度産業奨励館を作ろうと思っても、もう一回原爆ドームが出来てしまうのです。これがネクローシスと呼ばれる状態で、古い細胞が死んで新しい細胞に生まれ変わっても、損傷した状態で復元されてしまうんです。
この連鎖を断ち切るキーマンがミトコンドリアであり、ミトコンドリアの中でも電子鎖と呼ばれる箇所がスムーズに動いておらなければならず、電子鎖がスムーズに動くキーマンがシトクロムC酵素です。そして、LLLTはこのシトクロムC酵素をスムーズに動かし、ミトコンドリアを活発にし、DNAの傷を修復します。こうして、産業奨励館時代のデータにアクセスできるようになるので、元の形に復元できる、つまり故障が治癒するということです。
さて、LLLTには実は他にも脂肪燃焼、ガン、禿げなどの治療に有効であることが様々な実験で確かめられています。ここまでで、かなり長くなってしまったので、もっと詳しく知りたい方には『詳説LLLT』という小冊子をお渡ししますので、下記のURLより問い合わせページに入り『詳説LLLT』と入力して、送信してください。筆者が確認次第資料をお送りさせて頂きます。こちらの資料は完全無料です。
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