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執筆者の写真池上秀志

洛南高校駅伝部4日前刺激の謎に迫る

更新日:2021年10月16日

 あなたはピーキングという言葉をご存じですか?知っている方も多いと思うのですが、念のために説明させて頂きますと、狙ったレースに心身のピークを持ってくることをピーキングと言います。ハーフマラソンが63分09秒というといつでも20kmを1キロ3分ペースで走れると思われがちなのですが、少なくとも私はそうではありません。何か月も一つのレースに向けて準備して、そのレースにピークを合わせて初めて達成できる数字です。


 ピーキングは調整ということも多いのですが、私はピーキングという言葉を好んで使います。何故かというと調整というとせいぜいレース前1週間とか、2週間程度のスパンで使うのが一般的な言葉だからです。ですが、私に言わせればピーキングは狙ったレースの二週間前からやるようなものではなく、何か月もかけてやるものです。


 これは京都大学でインカレ10000m2位(28分36秒)というとんでもないハイレベルの文武両道を成し遂げた平井健太郎も言っていました。平井健太郎のことをよく知らないという方は「平井健太郎という男がいる」というブログ記事をご覧ください。


 話を本題に戻しますと、私の母校洛南高校では、この調整に関して今でも疑問に思う一つの謎がありました。それは駅伝の4日前に3キロ2本を9分24秒と9分15秒という比較的遅いペースでやるということです。しかも一キロごとに設定ペースが決められていて一本目は3分10秒、3分8秒、3分6秒、二本目は3分7秒、3分5秒、3分3秒と決められていました。


 高校生ともなると、かなりペース感覚もしっかりしてくるのですが、さすがに2秒刻みで上げていけと言われるとかなり集中しないとできません。そして、何よりもこの練習、駅伝メンバー全員がやるんです。高校駅伝は1区が10キロ、2区が3キロ、3区が8.10875km、4区が8.0875km、5区が3キロ、6区が5キロ、7区が5キロと距離が違います。しかし、3キロ区間の選手も10キロ区間の選手も全員3キロ2本です。


 駅伝だからみんなでやるんだろうと思われるかもしれませんが、それは違います。駅伝だからこそ、みんなプログラムは同じでそれぞれ各自でやるのです。駅伝は一人で走るから、一人でペースを作れということです。当然タイムも後脈(走り終わった後の脈拍)も自己申告です。それを当時顧問だった中島道雄先生が本来審判が座る高台に座って、ストップウォッチで気になる選手のタイムだけ測っています。


 それを見て大牟田高校の赤池健先生が「あれはたまげたな。俺は怖くて出来んたい。絶対ちょろまかすやつおるけんな」とおっしゃっていましたが、人間信頼されるとなかなか嘘はつかないものですし、何よりもこの練習には設定タイムがあるので、速く走れば良いというもんでもありません。


 私もこれまでどんな調整の方法が良いのかなと色々と調べもすれば、自分でも試してみました。高校卒業後も色々な人に話を聞いてきましたが、共通しているのは目標とするレースペースで本数(または距離)を減らすか、速いペースで本数(または距離)を減らすというパターンです。3キロ区間を走る選手に3キロ2本を、それもそんな遅いペースでやらせるというのは聞いたことがありません。


 でも中島先生は色々試した結果、そういう練習に落ち着いたそうです。ちなみにもう少し詳しく流れを説明すると、2週間前に京都陸上競技協会の記録会があったり、なければ15日前に1キロ6本くらいのインターバルがあって、その後の5、6日間は落とし、8日前に15x300m/100mをやって、次の日に試走、そして6日前に積極的休養、5日前に軽くジョギングと流しをして、4日前に3キロ2本、3日前と2日前は本当に40分くらい軽く走って流しをして、前日に西京極のサブトラックで1000m一本という流れです。こうやって書いてると今でも興奮と緊張感に今包まれます。


 ちなみにですが、レースの4日前前後に軽く刺激を入れると良い、というのもほぼほぼ全ての選手に共通して言えることです。5日前の人もいれば、3日前の人もいますし、同じ人間でもケースバイケースですが、だいたいそのくらいのタイミングで軽く何かやります。先述したとおり、レースペースかレースペースよりも速いペースでちょっとだけやるパターンが多いです。


 洛南高校ではレースペースよりも遅いペースで3キロ2本という内容でしたが、それで結果はどうだったかと言うと私の在籍した3年間は19位、11位、18位でした。私たちとしてはもちろん不本意な成績ではありましたが、こうやってみると安定していると言えなくもないです。そういえば、今の最強洛南高校陸上競技部と違い、私たちのころは確実に10番台という良くも悪くもそんなもんでした。そのころの洛南高校の売りはOBさんが活躍するということでした。


 自衛隊並みの基礎練習と中島先生の人間教育のたまものだと思うのですが、卒業してから伸びる選手が多く、当時は箱根駅伝もニューイヤー駅伝も洛南高校のOBが一番多いという時代でした。


 話を4日前刺激に戻しましょう。私も高校を卒業して、色々な方法を試していましたが、一つ言えることは4日前に何をしても劇的に良くなることはないということです。そして、一番大切なことは余計なことをしないということです。そして、走ってさえいれば別に4日前刺激もいりません。


 一度京都である市町村対抗駅伝で区間記録の区間賞を獲得し、その後少し足を痛めてジョギングと流しだけで一週間後の浜名湖駅伝という駅伝に出たことがあります。結果は4区で区間記録の区間賞を獲得しました。結論、4日前刺激もいらないということです。


 では例えば逆に4日前に1000メートル10本をオールアウトするような練習を入れたらどうなるでしょうか?結果は火を見るよりも明らかで良い結果にはつながらないでしょう。ちなみに私はこのパターンもやったことがあるのですが、やっぱりだめでしたね。疲れが残り後半に失速してしまいました。当時は5000mで14分20秒くらいの走力がありましたが、3000mで8分36秒もかかってしまいました。練習よりも遅かったです。


 もっと言えば、4日前刺激(5日前やったかも)で1000m5本を2分50秒でやって、試合は10000mで31分かかったこともあります。ちょうど蒸し暑い季節で、疲労の残りやすい時期でした。まあ、一言で言えばあほですね。


 このように考えると、最も大切なことは余計なことをしないことだということになります。ちなみに我が洛南高校の先輩にも前日刺激の1000mを2分30秒でやって、次の日の試合では全然走れなかった人もいます。同じ外すならこのくらい派手にやってしまった方がまだ良いですね。


 話を元に戻すと、試合前1週間を切ってから、何をやっても速くなるということはないのだけれど、あまりにも負荷をかけるとそのリスクは大きい、実際のところジョギングや持久走だけで試合に出ても良いのだけれど、まあ一応なんかちょっとやっとこうかなということなのだと思います。


 高校の時はこのあたりが分かりませんでした。刺激をかけるなら刺激をかければ良いし、疲労を抜くならジョギングで良いじゃないかと思っていました。でも改めて振り返ってみると、良い結果が出たときの4日前の刺激ってそんな大したことやっていないなと思います。そして、何よりも大切なことは2週間前とか4日前とかだけではなく、日ごろから疲労をため込みすぎずに継続的にそこそこ良い練習が出来ているということだと思います。


 高校を卒業して、9年が経ちましたが、未だにお気に入りのパターンみたいなものは出来ていません。その時々で、4日前くらいに何となくそれっぽいことやっとけば良いんじゃないかと思う今日この頃です。練習に関してはかなり細かいこだわりを持って、オーガナイズする方なのですが、最後の2週間くらいは余計なことさえしなければ、もうなんでも良いのかなと思っています。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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