こんにちは。
先日の大阪マラソンでは応援メッセージなど頂きまして、本当にありがとうございました。結果は2時間19分43秒で12位と全くやりたかったレースは出来ませんでした。レース展開としましては、初めの数キロは先頭集団をリズムを作るのに使わせてもらい、その後自己ベスト更新、上位入賞、日本人トップを目指し、安定して3分10秒前後のラップを刻みながら24㎞まで行きましたが、徐々に重くなった足が動かなくなり、25キロ以降大幅に失速2時間19分という結果になってしまいました。5キロごとのラップタイムは以下の通りです。
15:26
15:35
15:51
15:54
16:01
17:40
18:00
17:35
7:41
結果は勿論、満足いくものではありませんし、最後の最後まで自己ベストの更新やせめて日本人トップは出来るようにと常に確率が高いと思える選択を練習から日常生活から、レース当日までしてきたつもりです。しかしながら、終わって客観的に振り返って率直に思ったことは「良くやったな」という気持ちでした。最終的には足が重くなり後退しましたが、今までのどのマラソンよりも呼吸が楽なレースでこのまま最後まで行けるのではないかとも思いました。レースの直前まで貧血に苦しみ、棄権しようとも思っていただけに体はその時の力をよく振り絞ってくれたと思います。
言い換えれば、それだけ悪い状態まで自分で持って行ってしまっていたということです。レースの5週間前に貧血が判明してからの行動は概ね正しかったと思います。そこまで悪い状態まで持っていってしまった自分のミスですが、今回は貧血の治療に取り組み始めたレース5週間前からレース当日までを振り返ることで、同じように貧血に悩む人の参考になればと思います。
鉄欠乏性貧血
先ず、レース5週間前の血液検査の結果ですが、ヘモグロビン、赤血球、血清鉄は全く問題がありませんでしたが、フェリチンのみが異常に低く12ng/mlという値でした。フェリチンは貯蔵されている鉄の量を示す値です。血液検査では血漿中のフェリチンの数を調べますが、本来は骨髄に貯蔵されています。血漿中のフェリチンが20ng/mlを下回ると、骨髄に貯蔵されている鉄はほぼ枯渇しているという見解の研究者もおり、持久系スポーツをやるにはかなりきつく、私の場合は日常生活からだるさや眠気を感じていました。私の場合は、貧血ではなく、風邪をこじらせたのではないかと思えるような感覚がずっと続いており、感染性の病気にでもかかっているのではないかと思っていました。感覚としてはそのような感じです。
フェリチンの値がどのくらいになれば競技に悪影響を及ぼすかということですが、若干の個人差があり、50ng/mlを下回れば競技力が低下し始める選手もいれば、30ng/mlくらいでもまだ走れる選手もいます。共通見解としては25ng/mlが最低ラインでこの値まで落ちれば、全ての選手が治療を開始すべきだとされます。因みに一般人が潜在性の鉄欠乏貧血と診断されるのは15ng/mlを下回るラインで、この値を下回ると日常生活にも支障が出始めます。
フェリチンは医師の間でも深刻に受け止めない人が多く、血液検査の貧血項目にフェリチンが無いことも多々あります。その為、40代女性の多くが鉄欠乏性貧血に苦しみながらも、加齢による体力の低下だと思い込んでいるケースが多いです。40代女性の貧血患者が治療の後でよく言うことは「単なる加齢による疲れやすさだと思っていたが、治療の後で振り返ってみるとあれは病的な辛さだった」ということです。
フェリチンの正常化には経口の鉄剤摂取で5か月から6か月かかると言われています。経口摂取の場合には、過剰分は体外に排出されるので鉄過剰になるリスクはほとんどありません。また競技者はもともと鉄の流出が一般人よりも多い為、鉄過剰になるリスクの心配よりも早く回復させることが先決です。
競技者と鉄欠乏性貧血
フェリチンの正常化には理論的には半年ほどかかることは先述しましたが、これも0から100へと一気にジャンプアップするわけではなく、段階を踏みながら回復していきます。私の場合、問題となったのはいくら調べても競技者の詳細なデータが見つからなかったとことです。正常化に半年かかるとしても、元の競技レベルまで戻るのにどのくらいかかるのか、途中経過はどのようになるのか、練習はどこまでやって回復させるのが一番なのかといったことがまるで分らず、手探りでやるしかない状況でした。
貧血の治療を始めた時の状態ですが、同じ感覚で走ってもタイムが遅いというのも問題でしたが、それ以上に体がだるく、速く走れないよりも練習量をこなすこと自体がきつかったです。体の回復がとても遅くなったのも大きな症状で、2日程普通に練習すると次の日は1㎞5分で走ることすらきつく、体調が悪い日は1キロ6分半で1時間くらい走るのが限界で、そのあと倒れこむように寝ていたこともありました。比較的体調が良い日でも、この頃は3分15秒から3分10秒でインターバルをするのが精いっぱいで、とてもレースに出られる状態ではありませんでした。
こういう状態がレースの3週間前まで続いていました。貧血の治療ですが、経口での鉄剤摂取か注射での鉄剤投与を選びます。経口で鉄剤摂取する際にはビタミンCが含まれるもの、もしくはビタミンCのサプリメントと一緒に摂取することが大切になります。理想を言えば、ビタミンB12、葉酸も一緒に含まれるものが吸収を良くします。
経口摂取の場合の量ですが、病院で処方される分量は薬によっても違いますが、100㎎を一日に二回というところです。50㎎を一日三回のところもありますし、やや差はあるのですが、一日に200㎎前後摂取するケースが多いです。因みに長距離ランナーが必要な一日の鉄の摂取量はおよそ1日20㎎ですので、これの10倍の量に当たります。当然副作用は出ます。運動をしない人でもこの分量を摂取すると10‐20%の人が腹痛や頭痛、体のだるさを感じるようになります。因みに便も黒くなりますが、便が黒くなるから直ちに副作用が出るかは分かりません。黒便が出ても大丈夫な時もあります。
これに関してはかなり個人差があるので、練習に支障が出ない範囲内で鉄を補給することが大切だと思います。またバランスの問題もあると思います。治療を始めた当初は鉄欠乏が副作用よりもネックになっています。副作用よりも貧血の症状の方がはるかにきついので、多少の副作用には目をつぶって100㎎を一日二回摂取しました。摂取し始めて10日くらいで日常生活のだるさはなくなりました。このあたりから摂取量を減らし始めて、私の場合は25㎎を一日に二回まで減らしました。この分量なら副作用は全く感じられません。先述したように経口摂取の場合はフェリチンの正常化に半年ほど要するので、ある程度回復したところで副作用の出ない範囲内で治療を続けることが大切になります。
私の場合は日常生活のだるさがなくなるまでに約10日、調子が良い時に一本だけ1㎞3分を切れるようになるまで2週間、インターバルの平均タイムが1㎞3分を切るようになるまで3週間、調子が良い日にインターバルの最後の1、2本で1㎞2分55秒を切れるようになるまで4週間かかりました。
しかしながら、最後の最後まで体の回復は遅く、やりたい練習はほとんどできませんでした。一日頑張ったら、次の日はほとんど走れず、レースの6日前には12㎞を1㎞4分ペースで走ることすらできず、 5㎞から6㎞を4分40秒かかった時点で慌てて練習を切り上げました。この頃には何となく自分の体のパターンがつかめてきたので、レース当日に体調の良い日を持ってくることは可能だと思っていましたが、万が一レース当日に体が動かない日が当たれば、目をつぶるしかないとは思っていました。
私の場合は速く走れないことよりも体の回復が遅いことと、気分が悪く速く走れても長く走れる感覚が無かったことの方が大きかったです。また、筋肉痛になりやすく、一日スピード練習をすると次の日はかなりの筋肉痛になりました。
結論から言えば、副作用と治療のバランスをとりつつ鉄剤摂取を続け、体の反応を見ながら、練習を続ければ回復していきます。それでもやっぱり、練習を積み上げていくことは無理だと思います。誤魔化しながらの練習しか出来ませんでした。私の場合は一夏しっかりと練習が詰めていたので、能力を維持するような軽い刺激をたまに入れながら、貧血の治療と調整が上手くいけば、自己ベストが更新出来るかなという可能性を感じていたので出場に踏み切りました。貧血が判明したのがレースの5週間前というのも丁度いい時期だったと思います。これが3か月前ならまた一からマラソントレーニングを積み上げていかなければいけないので、レースに出るのは無理だったと思います。逆にレースがあと一週間早ければ、棄権せざるを得なかったでしょう。一回スピードトレーニングをすると次の日には体調がガクンと落ちたことなどを考えると練習を続けながら、貧血治療は可能であるが、体調が安定するまでは「出来るけどやらない」という時期を長めに設けることが必要だと思います。
精神的には、故障と向き合うよりもずっと簡単だと思います。追い込めないけれども走れるので、ストレスはほとんどありません。また体全体は元気だけど走れない故障は、物凄くフラストレーションがたまりますが、貧血の場合は体がだるくてそもそも練習したいとあまり思えないので、精神的なストレスはかなり少なかったです。私の経験から言うと、状態が良くなるまでは持久系の練習を中心に組んだ方が良いと思います。スピードトレーニングをすると鉄の需要が高くなるので、治りが遅くなるように思います。とは言え、トレーニング刺激がほとんどないにもかかわらず、足の裏の赤血球が壊れてしまうジョギングもお薦め出来ません。ジョギングとスピードトレーニングの量を極力へらし、持久走をメインに練習を組むのが良いと思います。勿論、余裕があれば何もしないのが一番です。
因みに私は貧血の時期を高地トレーニングだと思って過ごしていました。貧血が治ると貧血前よりもタイムが良くなる選手もいるので、タイムが遅くても「高地で走ってるから、こんなもん」と思うようにしていました。生理学的な根拠はありませんが、タイムは遅いけど良い練習をしていると思い込むことで、高いモチベーションを維持していました。
鉄剤注射
貧血の治療には鉄剤注射も有効です。というより鉄剤注射の方が即効性はあります。デメリットは臓器に鉄がたまりやすく副作用の弊害が大きいことですが、鉄過剰になるリスクは貧血治療の場合はほとんど無いと思います。貧血治療の目安としては
(15-ヘモグロビン)×体重㎏×3㎎
という式が使われます。他にもいくつか式がありますが、どれを使っても大きく違いはありません。ヘモグロビンが10、体重60㎏の選手であれば、900㎎の鉄剤注射が必要となり、通常は注射一本が40㎎ですので23本の注射が貧血治療に投与されることになります。ちょっとやそっとの注射で鉄過剰にはならないことがお分かりいただけると思います。ただ、この式は私のようにヘモグロビンが正常でフェリチンが低いという人には適用できません。ただ、この場合もちょっと打ったくらいで鉄過剰になりません。血清フェリチンの値が12ng/mlの場合、貯蔵鉄はほぼ枯渇しています。一方で鉄過剰のラインとされる500ng/mlの場合は貯蔵鉄で言うと4000㎎ほどあります。注射で言えば100本分です。
鉄過剰とは別に副作用は7%ほど報告されています。これは経口摂取の10%から20%に比べると低い数字で、消化器系への負担は注射の方がはるかに少ないので、経口摂取で胃腸障害が出る患者は鉄剤注射に切り替えることが多いです。
鉄剤注射は40㎎の鉄を2倍から5倍に薄めて注射するのですが、この時ブドウ糖で薄めなければいけません。鉄はPH9から10で安定するのですが、生理食塩水は酸化・還元作用があるので、粒子状態が不安定になってしまいます。悪心や倦怠感の原因となる為、海外では鉄を生理食塩水で薄めて注射することは禁止されている国もあるのですが、このことを知らない医師も残念ながらいます。お会計の後に渡される紙の中に「大塚生食水」などと書いてあったら、ぶどう糖で薄めてもらうようにお願いするか病院を変えるようにしましょう。
鉄剤注射を打つと腸に保護膜が張られ経口摂取の鉄は吸収されなくなります。吸収されないのに副作用のリスクが高まってしまうので、注射か経口摂取のどちらにしましょう。
鉄過剰のリスクはほとんどありませんが、それでも普通に生きていれば静脈内に直接鉄が入ってくることはありえません。体がどう反応するか読めませんでした。個人差も大きい上に、医学界ではそもそも貧血患者が体をぎりぎりまで酷使するというケースは想定されていないので、統計もありません。リスクとリターンを考えた結果、私は初めに2本静脈注射を打って、あとは経口摂取にしました。私の場合は、経口摂取で明らかに症状が改善されていたので、リスクは負わないようにしました。
貧血の原因
貧血の治療においては、貧血の原因を自分なりに考えることが大切になります。鉄は正常な時でも体内に3グラムから5グラムほどしかありません。正常な人の貯蔵鉄でも1円玉1枚から2枚程度の重さしか体内に無いのです。これが枯渇状態に近づいてくると1円玉の5分の1の重さの鉄があるかないかで体に大きな違いを生み出します。持久系競技者にとってはこれだけの違いで給料が上がるか、失業するかの違いにもなります。体はそのくらい微妙なバランスをとっているので、単に鉄の摂取量が少ないだけが原因とは限りません。
競技者なら多かれ少なかれ自分の食事には気を使っているでしょうし、また体調管理の為に食事をあまり変えない人が多いです。勿論、普段の食事からの鉄の摂取量が少ない場合には見直す必要がありますが、今まで貧血にほとんどなったことがなく、食事も変えていないのであれば、別の原因を考える必要があります。考えられるのは、1.急に練習の負荷や量を増やしていないか、2.発汗量は増えていないか、3.消化器系は正常か(下痢や黒便はないか)、4.食事前にコーヒーや紅茶など鉄の吸収を阻害するものを摂取していないかといったところです。私の場合は完全に1と2と3でした。ベルリンキャンプでは故障した私にコーチが特別練習を課し、練習量、質共に増えました。走っていれば、何となく体の感覚で何かがおかしいと早めに気付きますし、体も走ることになれているので、きつくても新しい負荷ではありません。ところが、走る以外の練習がおおかったので、どういう感覚が普通なのか分かりませんでした。また体にとっては不慣れな負荷だったことも負担だったのでしょう。走っていれば、一日の練習時間は多くても4時間程度、平均すれば、3時間くらいだと思いますが、故障しているときは一日5時間程度は普通でした。球技やスプリンターにとっては普通かもしれませんが、長距離のトレーニングは一回動き出したら、基本的に止まりません。体幹トレーニングやボディビルディングの時間もあるので、若干間もあるのですが、ほとんど動きっぱなしで5時間はかなりきついです。
そして何より大きかったのは故障の治療のためにイブプロフェンやアスピリンを服用していたことです。これらの非ステロイド性抗炎症剤は消化器系に負担をかけます。実際私の場合も消化器系から出血しており、これが鉄の流出につながったことは間違いないと思います。また鉄というのはそもそも摂取した量の一割ほどしか吸収されません。消化器系が荒れると更に鉄を吸収出来なくなります。またアスピリンには摂取した量とほぼ同じの鉄を流出させるという作用があります。
なので、私の場合はお灸をしました。腸炎や胃炎のツボにお灸をすえ始めてから明らかに体調がよくなりだしました。また、鉄剤を一日に200㎎摂取していると便が黒くなっていたのですが、お灸をすえてからは便の色も普通の色になりました。吸収率も上がっていたはずです。そもそもの話、貧血のだるさだけではなく、消化器系が疲れていて体がだるい部分もあったと思います。残念ながら、貧血のツボというのはいくら調べても見つからなかったのですが、消化器系が元気になると貧血の治りは早くなるはずです。
最後に
何年か前に高校生のチーム単位での鉄剤注射が問題となりました。私の高校時代から当たり前のように行われており、全国高校駅伝前になると、全国から強豪校が集まってくるので、京都には「鉄剤注射を打ってくれる病院」というのが口伝えに広まっていました。勿論、大学生や実業団でもチーム単位での鉄剤注射はよくあることです。私はチーム単位での鉄剤注射は反対ではありません。マスコミも偏った報道をしているように感じますし、その偏った報道を受けて、現場の人間も過剰反応しているように感じます。いくつかポイントをまとめておくと、1.鉄剤注射で競技能力が向上するのは貧血の選手だけである(従って禁止薬物ではない)、2.平成25年度国民健康・栄養調査報告によると、20代から40代女性の6割はフェリチンが25ng/mlである(持久系競技者にとっては明らかな貧血レベル)、3.正規の貧血治療においては毎日一本の注射を1ヶ月ほど続ける、4.鉄剤注射は体内に流出経路を持たないので鉄過剰になりやすく、臓器に負担がかかる、5.鉄過剰とは血清フェリチンの値が500ng/ml以上である。
報道では鉄過剰の選手ばかりが取り上げられていましたが、マスコミはその割合を出しません。一体ハードなトレーニングを積んでいる高校生の何割が500ng/mlを超えるフェリチンレベルを持っていたのでしょうか?チーム単位での鉄剤注射を行っているチームはどのくらいの頻度で鉄剤注射を打っていたのでしょうか?
もし私が指導者であれば、例えプロの選手であっても血液検査なしで鉄剤注射は打たせません。一般患者の7%が副作用を訴えているのであれば、競技者にとっては大きなリスクです。そして、打つのであれば1本や2本打っても効果はありません。定期的にたまに注射を打ってもほとんど意味がないのです。ただ、鉄剤注射をあたかもドーピングや高校生を鉄過剰の犠牲者にするかのように報道するマスメディアや陸連関係者の方々の反応が正しいのかどうかは上記の5点を基準に考えてもらえれば自ずと答えは出ると思います。
最後に私が色々調べた中で一番良いと思ったサプリメントを紹介しておきたいと思います。Ultimate IronというサプリメントでビタミンC、葉酸、ビタミン12も含まれており、コハク酸第一鉄が使われています。貧血治療に使う鉄はコハク酸第一鉄の他に、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、フマル酸第一鉄の形が望ましいです。Ultimate IronはIherbというサイトで購入できます。URLを下記に貼っておきますので、クリックしてページに飛んでください。
現在メルマガ登録者にPDF20枚分の小冊子『長距離走・マラソンが速くなるためのたった3つのポイント』を無料でプレゼントしています。今すぐ下記のURLからメルマガ登録をしてプレゼントをお受け取りください。