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執筆者の写真池上秀志

前日刺激は何のため?

更新日:2021年10月16日


ロードレースシーズン、マラソンシーズン、駅伝シーズン真っ只中で週末は各地のレースに出ている方も多いと思いますが、調子はいかがでしょうか?

私の方は大阪マラソンが今年も近づいてきて、日に日に緊張感が高まり話しかけにくい雰囲気をわざと出している今日この頃です。

さて、試合が近づいてきたので試合前の調整に関する軽いコラムを書いてみたいと思います。中学から大学までのどこかで長距離走をされていた方にとっては、前日刺激の1000m1本はおなじみになっていると思います。中学校の3000mから、実業団選手のマラソンまでかなりの割合で前日刺激の1000m一本をやります。この風習?は海外では聞いたことがなく、日本独自のものです。社会人になってから走り始めた方にはあまりなじみがないかもしれませんが、まわりの中学、高校、大学で長距離走をやっていた方に聞いてみてください。ほとんどの割合で強い学校はやっていますし、中学、高校、大学で長距離走をやっていて、そんな話は聞いたことがないとか、そんな調整はしたことがないという人はおそらくゼロだと思います(水曜日のダウンタウンで検証してほしいくらいです)。

運動生理学的に説明するなら、前日刺激の1000mは疲労をためずに筋肉内のミオグロビンの酸素解離能力をスムーズにしておく効果があるようです。呼吸器から取り入れた酸素は血液中ではヘモグロビンと結びつき血液と一緒に流れていき、活動筋ではヘモグロビンからミオグロビンという酵素に引き渡され、最終的には細胞内のミトコンドリアでクエン酸回路(=ATP回路)でアデノシン二リン酸(=ADP)をアデノシン三リン酸(ATP)に再合成することでエネルギーを作り出しています。この時、ヘモグロビンやミオグロビンから酸素がスムーズに離れないと、せっかく酸素を運んでも筋内では使われません。ヘモグロビンからミオグロビン、ミオグロビンからミトコンドリアへとスムーズな酸素の引き渡しが行われないといけないのですが、これが酸素解離能力です。

とは言え、上記は敢えて運動生理学的観点から利点を説明すればの話です。実際には、やってもやらなくてもそんなに変わりません。別に200m5本でも良いし、100m15本でも良いし、前日はジョギングだけでも構いません。単に気持ちの問題というのであれば、人間の性格は体以上に千差万別なので、もっといろいろなやり方があっていいはずです。そんな疑問を持っていた当時高校生だった私は「何故皆が皆前日に1000m1本するんですか?」と立命館高校の先生に聞いてみたことがあります。そうすると、膝を打つような答えが返ってきました。

女子駅伝の黎明期、ワコールの黄金期で、1989年から4連覇、二年間リクルートに優勝を奪われた後、再び優勝していた時期がありました。この時期のワコールは強いだけではなく、起用した選手が外さないということで定評があったそうです。そこで、その秘密を当時の藤田監督に聞いたところ、駅伝の前日に1000mを1本させていたとのことです。要するに、コンディション調整というよりは前日に明日の入りの1㎞を改めて確認させていたという技術の調整だったということです。駅伝で一番怖いのはオーバーペースです。逆に初めの1㎞は少々遅くても何の問題もありません。また、初めの1㎞さえ良いリズムで入ればその後も良いリズムで走り切ることが多いのです。

タスキをもらうと一気にストレスホルモンが体中を駆け巡り、闘争モードに入ります。全国大会にでもなれば、平常心でいるのも難しくなります。何回言い聞かせても、オーバーペースで走りだす選手は出てきます。長距離走では遅く走り始めて後半上げるのはそれほど難しくありませんが、逆はとても難しいです(これは運動生理学的にも解説できるのですが、今回は割愛します)。高校時代5000mを13分45秒で走っていた大牟田高校の土橋啓太さんが全国高校駅伝の1区で仙台育英高校のスティーブン・カビルさんの飛び出しについていき、初めの2㎞を5分20秒で通過した後、大失速し32分台、区間46位でタスキをつないだ例もあります。そのくらい初めの1㎞というのは駅伝では大切です。

もう一度前日刺激の話に戻ると、最後の技術調整としてワコールがやっていた1000m1本がいつの間にか、1000m1本だけが口伝えに全国に広まり、いつの間にかトラックやロードレースでも多く使われるようになったとのことです。あくまでも一説なのですが、話としては納得できるなと思います。

また駅伝では前日の1000m1本を見て最終的にメンバーを決める監督さんもいらっしゃるのですが、私もこれには印象深い思い出があります。私が高校3年生の都道府県対抗男子駅伝で、補欠含めて4人のメンバーがあらかじめ選ばれてそこから3人が選ばれるのですが、前日まで誰が選ばれるかは分かりませんでした。私は前日刺激の1000mのスタート前先生方に何度も「いつも通りで良いんですよね?」と念押ししてから走りました。というのも私の場合、5区の8.5㎞区間か補欠のどちらかというのは自分でわかっていて、5区を走るなら目標タイムは25分15秒、初めの1㎞を3分3秒で入ると決めていたからです。ということは前日刺激も3分05秒から3分01秒の範囲内でやることになります。ただこれは高校生にとってはかなり遅いペースです。ですので、前日刺激のタイムで選考から落ちないのかどうか念押ししてから走り始めて予定通り3分3秒で走りました。レース当日も落ち着いて初めの1㎞を3分3秒で入り、後半ペースを上げて9人抜きの25分23秒、目標よりやや遅かったものの、及第点でした。

ところが、後から先生方の話を聞くとやっぱり前日刺激があまりにも遅かったので、池上をメンバーから外そうという声もあったとのことでした。

今回は前日刺激がテーマの話でした。因みに私は色々なパターンを試した末に、今は前日は8‐10㎞くらい軽く走って100mを10本くらいの時が多いです。皆さんも色々なパターンを試してみてください。

 長距離走、マラソンについてもっと学びたい方はこちらをクリックして、「ランニングって結局素質の問題?」という無料ブログを必ずご覧ください。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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