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さて、今回のテーマは最近のブログでも紹介したコーチハドソンのトレーニングにおける12原則です。参考になる部分も非常に多いのでぜひ最後までお読みください。
トレーニング原則1:継続的にそこそこの総走行距離を維持すること
長距離走・マラソンが手っ取り早く速くなるには、総走行距離や走る頻度を増やすことがベストです。中にはゆっくりと走ることは無意味で、インターバルトレーニングなどの追い込む練習を多く取り入れる方が速くなるという人もいますが、そのような意見は忘れてください。何故なら、単純にそれは長距離走・マラソンについて理解していない人の意見だからです。
特にもしもあなたが、すでにコンスタントに月間600km以上走っている競技者でないのであれば、走行距離を増やすことは楽に走るのが速くなる近道です。私は今普通に仕事をしながら走っています。この記事を読んでいるほとんどの方が学生の方かお仕事をしながら走っている方だと思います。
ここで考えてみてください。そもそも仕事や勉強をしながら走ることの一番の負担は何でしょうか?それは体力や神経(集中力)ではないでしょうか?そうすると、結局のところ、極限の集中力を削り出したり、週に二回のインターバルを三回にするよりも、コンスタントに走り続けることが手っ取り早く速くなる方法です。
そして、何よりも故障が起こりやすいのは走行距離を増やす過程にあるときと走行距離が少ない時です。そうすると、コンスタントにある程度の走行距離が故障を予防しながら、力をつけていく一つの方法になります。コーチハドソンはレベルを問わずある程度の走行距離を維持することを全てのランナーに推奨しています。
これはもちろん、全てのランナーに月間1000km走れと言っている訳ではありません。彼が言っているのは、自分がここまで増やしたいと思う総走行距離に到達したら、その練習量を継続的に維持した方が良いということです。
トレーニング原則2:連続的な期分け
トレーニング原則の2つ目は期分けを出来るだけ連続的にするということです。期分けという言葉を初めて聞くという方のために改めて説明しておくと、従来より時期を区切って、この時期はこれをやる、この時期はこれをやるというふうにある時期において重点を置くポイントを絞り、その区切りに従って、トレーニングを進めていくことで力をつけやすいというものです。
この期分けのやり方にはいろいろなやり方があります。高校生で多いのは、鍛錬期、移行期、レース期という分け方です。これにテスト期間に休養気を設けたりとかそんな感じでしょうか?
他の例でいうとアーサー・リディア―ドというニュージーランドの名指導者がとても有名な期分けをしており、マラソンコンディショニング、ヒルトレーニング、無酸素トレーニング、調整期、レース期という期分けをしていました。アーサー・リディア―ドのトレーニングシステムについて詳しく知りたい方は下記のURLを参照してください。
アーサー・リディア―ドという指導者はこの期分けというものを明確にやる指導者です。我が母校洛南高校でも割としっかりと(明確に)期分けをしていた印象があります。
一方で、コーチハドソンはこの期分けは明確にするべきではなく、連続的にするべきだという考えです。要するに、あるフェーズからあるフェーズへと移行する際には、その境目が分からないような形で徐々に徐々に移行するべきだという考えです。
例えば、リディア―ドのトレーニングシステムにおいて、マラソンコンディショントレーニング期間には本当に走り込みしかしません。そして、その次にインターバルへの準備として、ヒルトレーニングをします。そして、その次にインターバルトレーニングを導入するのですが、そうするとヒルトレーニングはほとんどなくなります。そして、調整期にはタイムトライアルをするのですが、そうするとインターバルトレーニングはなくなります。このようにかなり明確にあるフェーズからあるフェーズへと移行していくのですが、コーチハドソンはそのようにはせず、なるべく連続的にするべきだという考えです。
トレーニング原則3:トレーニングは一般的なものから特異的なものへ
原則の3つ目は一般的なものから特異的なものへと移行させるという考え方です。一般的というのは、簡単に言えばレースペースよりもゆっくり長く走る練習と短く速く走る練習です。そして、特異的というのはレースに近い練習で、例えば5000mのレースにとって特異的な練習は1000m5本を200mつなぎでやるような練習が該当します。
トレーニング原則4:3つの期分け
ブラッド・ハドソンはトレーニングの期分けは連続的であるべきだと考えていますが、だからと言って期分けをしない訳ではありません。コーチハドソンは期間を3つに分けます。導入期、基礎構築期、シャープニングの3つの期間です。
導入期は単純に体をランニングにならしていく時期です。ただ、走るだけではなく、坂ダッシュも入れて、ゆっくり長く走る(総走行距離含めて)ことと、短く速く走ることに体を慣らしていきます。そして、ある程度総走行距離が増えた時点で、より特異的な練習ができるように、更に練習をレベルアップさせていきます。そして、レースが近づくとレースに近い練習へと焦点を合わせていきます。コーチハドソンのトレーニングの特徴の一つはレースが近づくと最後は、楽な練習かレースペースの練習しかなくなるということです。
これは私にとってはとても合理的に感じられます。これは私が中学生の頃の話です。中学駅伝というのは男子は3000m9分半以内で走れる選手(9分ちょうどから9分半まで)が6人そろえば、京都で優勝して全国大会出場が見えてきます。恐らく他の都道府県も似たようなレベルだと思います。
ところが、200mの流しやインターバルを36秒でやったりする選手を見て「なんで?」といつも思ってました。3000m9分半で走れないのに、200m36秒で走ってどうすんだよ?その走りはいつ使うんだよ?と思っていました。
今から思えば、私の考え方が必ずしも正しかった訳ではないのですが、少なくともレースが近づくとよりレースペースでの練習に重点を置くことが、身体的、心理的、技術的に準備ができると感じます。
トレーニング原則5:ヒルランニングを多用する
コーチハドソンを知っている人は坂ダッシュを多用するコーチとして知っているかもしれません。実際にコーチハドソンは、坂ダッシュを多用するコーチです。何故かというと、ランナーにとってのベストな下半身の筋トレは6-8%の傾斜の坂での8秒間から12秒間のスプリントであることに気づいたからです。距離にして50mから80mといったところです。6-8%の傾斜がどのくらいか分からない人はジムに行って、トレッドミルの傾斜を6-8%に設定して、それがどのくらいの傾斜か確認してみると良いと言っています。
ただ実際には8%を超える傾斜の坂というのはそうあるものではありませんし、とはいえ坂を求めて三千里という訳にもいかないので、家の近くで最も傾斜のきつい坂を探すのが現実的だと思います。
このヒルトレーニングの一番のメリットは故障の予防です。ランニングに必要な結合組織(腱、靱帯、筋肉)を効率よく鍛えることが出来るので、故障が減ります。コーチハドソンがもう一つ故障の予防として重視しているのが、総走行距離を増やすことです。これも私にとってはとても合理的に感じます。
最大筋力を強化することと、最大化で繰り返し使っても耐えられる耐久性を増やしておけば、例えば1000m10本のようなレースに近いトレーニングをしたときに故障のリスクが減るでしょう。
ちなみにコーチハドソンは坂ダッシュを重要視しますが、それは他の11の原則と同じくらい重視するのであって、坂ダッシュに対してだけクレージーであるわけではありません。
トレーニング原則6:トレーニングの強度に大きな幅を持たせる
テストステロンムンムンの男の中の男みたいな人に人気のコンセプトの一つは「work hard or stay home」だと思います。仕事をするときは100%集中し、感情にとらわれず、まるでマシンのように働きまくる、短期間で稼ぐだけ稼いで、遊ぶときは思いっきり遊び、女が何人もいて、女を抱くときには仕事のことは考えない、そして仕事が始まると今度は遊びのことは考えない、こういうやるときはやる、遊ぶときは遊ぶというスタイルがかっこいいとされる価値観は間違いなく多くの人に受けると思います。
ただ長距離走・マラソンにおいては色々な意味において、この考えは通用しません。先ず第一に、長距離走・マラソンは練習以外の睡眠や食事がパフォーマンスに与える影響が大きいというのが一つ、そしてトレーニングにおいても全力か休養的な練習かというアプローチよりも、様々な強度のトレーニングを組み合わせた方が上手くいくのです。少なくとも私とブラッド・ハドソンはそのように考えます。
私が一キロ3分40秒とかゆっくりなペースでの走り込みを繰り返すのを見て、ある人から数度にわたって「そういった練習は一キロを3分40秒で走る能力は高くなるけど、レースでは使えない」というアドバイスを頂きました。
ありがたいのですが、それは事実ではありません。たとえそれが5000mを13分台で走るためのトレーニングであったとしても、様々なペースの練習を組み合わせる方が向上します。要するに、これも出来るだけ連続的にやるというのがコツで、5000m13分台を狙うための練習においても、ペースでいえば、2:30/kから4:30/kくらいまでなるべく連続的に様々なペースでの練習を入れた方が良いということです。そして、これよりも遅いペースでのジョギングが心身のリフレッシュに役立つでしょう。
トレーニング原則7:マルチペースワークアウト
原則7は原則6に関連があるのですが、7番目は一つのプログラムに様々なペースを入れてみようということです。私が今までやってきた練習で一つのお気に入りはステップダウンのプログラムです。例えば2x2000m/400m-2x1600m/400m-2x1200m/400m-2x800m/200m-4x400m/200mなどです。この場合2000mは3:00/kからスタートし、徐々にペースを速めていき、最後の400mは64秒まで上げていきます。ということは3:00/k-2:40/kまで様々なペースが一つの練習に入っているということです。
このように様々なペースを一つのワークアウトに入れるということは特に市民ランナーの方にとって2つの理由からおすすめです。
1つ目は、週に一回のインターバルでも様々なペースの刺激を体にかけることが出来るから。
2つ目に、週に一回であれば、みんなで練習するのも調整しやすいから。
様々な刺激を1つのワークアウトに入れずに、複数に分けてやるとその分仕事との調整や他の人との調整が難しくなります。
トレーニング原則8:ノンウィークリートレーニングサイクル
この原則は非常に単純でトレーニングはカレンダーに左右される必要がないということです。火曜日はこれ、水曜日はこれ、木曜日はこれというパターンを作ることは一見やりやすいのですが、7日で1週間というサイクルとトレーニングの間には何の関係性もありません。カレンダーに左右されるのではなく、必要性に応じてトレーニングプログラムを組むべきです。
トレーニング原則9:複数の閾値ペース
閾値という言葉を聞けば、ちょっとでも運動生理学をかじったことのある人なら「乳酸性閾値」「換気性閾値」という言葉を思い浮かべるでしょう。ですが、乳酸性閾値や換気性閾値の発見は研究者やコーチを少々過剰に喜ばせすぎました。
生理学的には乳酸性閾値、換気性閾値があることは間違いありません。ですが、それはほかにも色々ある閾値の一つに過ぎません。要するに、こういうことです。私の乳酸性閾値ペースが仮に一キロ3分ちょうどのペースだと仮定します。この時、1キロ3分5秒のペースや1キロ2分55秒のペースの練習は、乳酸性閾値から5秒ずれているという理由から1キロ3分ちょうどのペースと比べたときに練習効果が著しく落ちるのでしょうか?
答えはもちろんノーです。それぞれのペースのトレーニングにはそれぞれのトレーニングのメリットがあるのです。運動生理学者は乳酸性閾値ペースでのトレーニングは乳酸の処理速度を速め、体が酸化するポイントを遅らすことが出来、競技能力の向上に役立つと主張します。勿論、それは正しいです。
ポイントはそこにはありません。ポイントは乳酸性閾値は生理学上の一つの現象であり、レース結果は複数の生理学的・心理的要因によって決まるということです。そのような観点から、最大酸素摂取量も乳酸性閾値もランニングエコノミーもそれぞれ一つの観点としてとらえられるべきで、この3つの観点ですべてが語りつくせるかのように考えてはいけないということです。
このような観点から、ブラッド・ハドソンは3つの閾値ペースを考案しました。1つ目は全力で走った時に2時間半維持できる強度です。2つ目に全力で走った時に、90分程度維持できる強度です。3つ目に、全力で走った時に1時間程度維持できる強度です。この3つの強度を組み合わせることが有酸素能力の発達のカギであるとしています。
ただ、実際にはこれよりも遅いペースのトレーニングも組み合わせながらの話です。
トレーニング原則10:コンスタントバリエーション
なんかさっきから同じことばかり説明している気がするのですが、原則の10番目は様々なトレーニング刺激を組み合わせること、練習に変化をつけましょうということです。以上。
トレーニング原則11:週に一日は休養日を設ける
トレーニングにおいては休むことも練習のうちです。週に一日の休養を設けることはとても重要です。ですが、この休養というのは文字通り何もしない日だとは限りません。コーチハドソンの選手にとっての休養日とは45分のイージーランニングと坂ダッシュです。ただし、ここに到達するまでにすでに何年にもわたってハードな練習をしてきたことを忘れてはならず、誰にでもマネできることではないと彼は念を押します。
トレーニング原則12:厳選されたクロストレーニング
クロストレーニングというのは、ランニング以外のトレーニングです。世の中にはクロストレーニングマニアとでもいうべき選手が存在し、中にはランニングとクロストレーニングの比率が約半々という選手もいます。「インカレチャンピオンから学ぶ走りの極意」で講師を担当してくださった中村真悠子さんもその一人です。
そして、我が母校洛南高校陸上競技部もそうでした。なんかしかも最新のトレーニングとは程遠い、「それどっから切ってきたん?」みたいな本当にただただどっかの工場で使った鉄の余りを切ったみたいなシャフトとか軍手装着しての手押し車とか、どっかの梱包資材を盗んできて破って作ったみたいなシートの上とかそんなんで練習してました。ゴミ拾いとか先輩からの理不尽な説教とか、暗黒のオーラをまとった先生からのプレッシャーとかそういう精神修養も入れたら3分の2くらいはクロストレーニングちゃうかっていう学校でした。
色々な選手がいるのですが、ブラッド・ハドソンの考えは「故障していないランナーにとって唯一必要なクロストレーニングは体幹補強だ。それ以外必要ない」とのことでした。
さて、今回はブラッド・ハドソンのトレーニング12原則でした。私の経験上この12個の考えは全て非常に役立つものなので、是非取り入れてください。
ブラッド・ハドソンはトレーニングの原理原則を12個に分けて解説していますが、私自身は下記の8個が根本の原理原則だと考えています。
1.トレーニング刺激と適応の原理(超回復の原理)
2.オーバーロード(過負荷)の原理
3.維持の原則
4.特異性の原理
5.収穫逓減の法則
6.リスク急増の法則
7.重要性漸増の法則
8.特異性漸増の法則
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ウェルビーイング株式会社代表取締役
池上秀志
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